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『恋する寄生虫』柿本ケンサク監督 重視した成長譚と抑制したビジュアルセンス【Director’s Interview Vol.162】

『恋する寄生虫』柿本ケンサク監督 重視した成長譚と抑制したビジュアルセンス【Director’s Interview Vol.162】

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カッコ良すぎないルック



Q:林遣都さんと小松菜奈さんの二人から一歩引いた立ち位置で存在していた、井浦新さんと石橋凌さんも安心感がありました。


柿本:井浦新君の和泉という役は、物語の中の大きな鍵を握っています。「虫とは」「虫と体の関係とは」「人と社会の関係とは」など、彼がそのあたりの説明を担っている部分も結構ありました。説明しないと物語が伝わらないような詳細は、和泉に全部言ってもらわなければならなかった。ただし、そこをやり過ぎると彼自身のリアルな感情がなかなか出てこない。もちろん本人も僕もそんな説明的なセリフは極力言わせたくなかったので、そのバランスを取るのが難しかったですね。新くんはそんな状況の中でも、不器用だけど実はすごく純粋でずっともがいているという、難しい役柄を体現してくれました。


また、凌さん演じる瓜実の最初の設定は、“虫”を悪とみなし、それを排除するためなら手段を選ばない、この社会の象徴のような存在だったんです。ただその一方で、瓜実の行動原理は、孫の佐薙を愛して守りたい一心だったりするのではないかとも考えました。そして凌さんと色々話した結果、その行動原理の一面を瓜実の役柄に追加することにしたんです。


だからこの話の中には、本当に悪い人は存在しません。みんな自分なりの正義を持って行動していて、それが違っているだけなんです。俳優の皆さんとは現場でそんな議論をしながら、どんどんキャラクター像を詰めていきました。



『恋する寄生虫』©2021「恋する寄生虫」製作委員会


Q:映画全体を支配するルックは素晴らしく、ショットによっては、まるでタルコフスキーの『惑星ソラリス』(72)を観ているかのような感じもしました。撮影を担当されたのはKateb Habibさんで海外の方ですが、撮影に関してはどのようにお話しされたのでしょうか? 

 

柿本:いわゆる日本映画然とはしたくないなとは思っていました。ただ一方で、映像作家やCM出身のディレクターにありがちな「どうだ、この映像カッコいいだろ」という風にもしたくなかった。そういう意味では、やり過ぎないようにしようと、そこにこだわっていたかもしれません。それでも基本は、今までCMやMVで培ってきたことをごく自然にやっていると思います。シンメトリーや、グラフィック的な構図に加えて、光は繊細にコントロールしていますね。


今回の映画はシチュエーションが少なく室内のシーンが多かったんです。特に高坂が住んでいるマンションは苦労しました。実際のマンションで撮影することを前提に進めていたのですが、どうしてもアングルのバリエーションを作れない。室内が多く出てくる中で、おなじアングルが何度も出てくると既視感が募ってきてしまう。それはどうしても避けたかった。とはいえ、大きなセットは組めないので、とあるマンションの1階ロビーを借りて、そこにパネルを立てて部屋にしたんです。パネルを外して撮影ができるようにして、アングルのバリエーションを増やしたりしました。



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