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『香川1区』大島新監督 前作を凌ぐ娯楽大作で描いた日本の民主主義の実像【Director’s Interview Vol.171】

『香川1区』大島新監督 前作を凌ぐ娯楽大作で描いた日本の民主主義の実像【Director’s Interview Vol.171】

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有権者とは一体何なんだ?



Q:本作は前作ほど、小川さんが前面に出ていない印象を受けます。『香川1区』というタイトルの通り、選挙区全体を描こうという意図によって、そのような方向性になったのでしょうか。


大島:そうですね。有権者とは一体何なんだ?という思いが強くありましたし、そこをまとめて描きたかったんです。表面上の主人公は小川さんだったり、対抗馬の平井さん、町川さんだったりするんですが、有権者の意識とか、そういうものもちゃんと作品に取り込みたいと思っていました。


衝撃的だったのは、カメラは回っていなかったんですが、小豆島で自民党の平井さんにいつも投票している方に取材した時です。小川さんに入れない理由を聞いたら、「頼まれてないから」と(笑)。「だって頼まれてないから。それが何か?」という意味のことをおっしゃっていて。じゃあ「頼まれる」ってどういうことかというと、地域に根ざした町議会議員さんとか、町や村の顔役みたいな人に「よろしくな」って言われる、ということなんです。


私はそれを聞いて「なるほど、そういう感覚なのか」と。「なるほど」って納得しちゃいけないんですけど(笑)。そういうことを知るのも映画を作る目的でしたね。



『香川1区』© 2021 NETZGEN


Q:映画では小川さんを応援したいけど、義理で平井さんに入れるという人もいました。「じゃあ小川さんに投票すればいいのに」と思いました。誰に投票したかなんて、わからないのに。


大島:わからないですよね。


Q:非常に不思議で、とても日本的だと思いました。


大島:日本的ですよね。でも隠れキリシタンみたいな人もいるんです。表面的には平井さん支持でも、小川さんに入れている人もいる。


あと面白いのは、支持者の人たちに話を聞くと、平井さんがどうこうじゃなくて、やっぱり「自民党に入れたい」という人が多いんです。一方、「小川さんは好きだけど立憲民主党が好きじゃない」、という人もいる。人より党なのか、党より人なのかという部分も対比として面白かったですね。


Q:期日前投票に行った人が、とあるビルの中で平井さんに投票したことを報告するシーンがありました。とても衝撃的でした。


大島:僕も衝撃でした。もうそれを知った時は「本当にこれが民主主義か?」と思ったんですが、でも実際に行われている。すごい数の人がビルに入っていくんです。その人たちは悪気もなければ、平井さんに対する熱も何もないと思うんです。その一票も、小川さんに対して祈るように入れている人の一票も同じじゃないですか。「これって何なんだ」って、すごく思いました。


でもきっと日本中で、そこまで露骨ではないにせよ、そういう選挙は未だに行われているんだと思います。


Q:特定の候補に投票を促して、それを確認するという行為に違法性はないですか?


大島:弁護士やジャーナリストに確認しましたが、よほど嫌なのに強制しているとか、命じている文書といった証拠がないと、なかなか罪には問われないであろうということでしたね。




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