映画が面白くなる出来事が次々に…
Q:『香川1区』というタイトルは、撮影前に決まっていたわけですね。
大島:僕は割と、タイトルによって作品の方向性を規定するところがあります。前作は思いっきり自分の思いがこもっているタイトルで、意味がすごく強かった。逆に今回は無機質にしたかったんです。だから『香川1区』という無機質なタイトルにして、製作をスタートさせました。
Q:「無機質にしたい」という言葉はすごく腑に落ちます。前作は小川淳也という人物の葛藤に、大島監督が寄り添う印象がありました。それに対し本作は硬質な感触でしたが、監督の狙いだったんですね。
大島:急に報道特集みたいなシーンが入ってきたりしますからね。そういう要素も影響しているかもしれません。ただ驚いたのは、ちょうど製作を始めようとした時に、平井さんの脅し発言が起きて、これは益々注目度が高まると思いました。(※筆者注:東京五輪・パラリンピック向けアプリの事業費削減をめぐり、請負先企業のNECについて、平井卓也氏が「脅しておいた方がよい」と指示した問題)
『香川1区』大島新監督
Q:まるでドキュメンタリーの神様に、「今撮るしかない」と言われているようなタイミングでしたね。
大島:そんな感じはありました。もう撮るしかないだろうと。誰も頼んでいないのに、映画が面白くなるような出来事が次々に起きて、こちらはそれに対応するのが精一杯でした。
Q:取材期間中はずっと香川に滞在されていたんでしょうか。
大島:今年の6~8月くらいまでは、香川での取材は4泊5日の日程で月に2回行く程度でした。だからその時期は構成を考えたり、どういうストーリーになるか思いを巡らせる余裕もまだありました。
でも9月に入り、さらに選挙戦が始まる10月になると、もう目の前で起きていることに対応するのが精一杯で、本当に「毎日こんな事が起こり得るのか?」といった怒涛の日々でした。
Q:ドキュメンタリーを撮る側としては、ある意味幸せな状況ですよね。
大島:そうですよね、本当にそう思います。