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『ちょっと思い出しただけ』松居大悟監督 コロナ禍を描くのは必然だった【Director’s Interview Vol.179】

『ちょっと思い出しただけ』松居大悟監督 コロナ禍を描くのは必然だった【Director’s Interview Vol.179】

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松居作品の好きなところ、それは溢れる映画的カタルシス。いつもスクリーンに引きずり込まれ、心を鷲掴みにされてしまう。今回の『ちょっと思い出しただけ』は普遍的なラブストーリーにも関わらず、映画的なカタルシスがこれまた凄まじい。エンドクレジットで浸る余韻が、席を立つことすら忘れさせる。


誰もが自分事化してしまいそうになる、池松壮亮と伊藤沙莉のナチュラルさ、脇を固める多彩な出演陣、巧みな構成と脚本、沁みるクリープハイプの主題歌、などなど、語り出すと止まらなくなる本作。手掛けた松居監督自身は何を思いこの映画を作ったのか? 話を伺った。


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一年かけて捻り出した設定



Q:本作では時間が逆行し1日を定点観測していきます。この設定はどのように思いつかれたのでしょうか? 


松居:2020年の春頃、クリープハイプの尾崎君から「これで松居くんと何かやりたい」と、「ナイトオンザプラネット」の曲が送られてきました。聴いてみると、ミュージックビデオを作るだけでは何だかもったいない気がしたんです。長い話を作って、その最後にこの曲が流れるのが良いなと思い、「脚本を考えるから」と預からせてもらいました。


そうは言ったものの、男女のラブストーリーくらいしか思いつかず…、ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)を何度も観ていて。あの作品は世界各地の同じ時間の話なんですよね。それをヒントに、「東京を出れない」という当時のコロナ禍の状況も踏まえて、「東京の同じ場所のいろんな時間の話」と決めました。


そこからは色々とアイデアが湧いてきて、「恋人たちの定点観測」もそこで思いつきました。ただ、普通に話が進んでいくと、別れてしまって最後が悲しく終わりそうだったので、だったら時間を逆にして思い出していく感じにしようと。


でもここまで考えつくのに一年くらいかかかりました。何とか捻り出したという感じですね。


Q:結構時間がかかったのですね。 


松居:かかりましたね。その間はかなり辛かったです。本当は二年くらい前に曲をリリースしたかったのですが、「松居君が考えているから」と尾崎くんは待っててくれたんです。僕も「尾崎君が待ってる…」と焦っていましたが、なかなか思いつかなくて…。


それでも何となく「朝日が来て終わるんだろうな」と、「何となく」はあったのですが、でも結局何の話なんだというところが全然思いつかなかったです。思いついた後は色んな人に相談しながら書き進めたんですけど。



『ちょっと思い出しただけ』©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会


Q:脚本は、時間順に書いてからひっくり返した(逆行させた)のでしょうか。


松居:いえ、プロットの段階から遡る構成にしていたので、最初から逆行して書いていきました。別れた2年後から書き始めたのですが、書いている時は時間を行ったり来たりしていましたね。全体を少しずつ厚くしていった感じです。


Q:時間が遡ることにより、答え合わせ出来るような要素も少しずつ散りばめられています。


松居:一回観たら分かるようにしていますし、二回目を観たら更に発見があるようにもしています。一回目で全て分かってもらえたら嬉しいですが、あえて分かりやすくはしていないので、特に最初の方は二回くらい観ないと気づかないところもあるかもしれません。


Q:そんな中、永瀬正敏さんだけは逆行せずに普通の時間軸にいるそうですね。


松居:永瀬さんだけは時間からも超越して、愛を貫く人にしたかったんです。そうしたときに、彼だけ時間が順行していることをどう見せるのかは、色々と考えました。中でも、服がどんどんボロボロになったり、花がどんどん枯れていくのは、永瀬さん自身のアイデアなんです。





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