少人数スタッフの意義
Q:片山監督は撮影期間を伸ばしたいがゆえ、(予算の関係から)現場は少人数でのスタッフ体制で敢行したと伺いました。実際の撮影はいかがでしたか?
池田:技術パートとしての仕事は撮影するだけではありません。撮影したデータを守ること、昔で言う現像前のフィルムをしっかり保管することも重要な仕事です。カメラを回す、フォーカスを送る、照明を作る、機材を管理する、等々、多岐にわたる仕事を数人のスタッフで担当するわけですが、それを今回は1〜2人でやるとなると、当然集中力も分散してしまう。目の前の芝居に集中すべきときでも、他のことまで頭を回しておかなければならない。そこのバランスをどう取るかが一番大変でしたね。
ただ、撮影期間が短くなることは選択肢としてなかったんです。普通のやり方で均等にやっても、結局は普通のものになってしまうので、まずは何か一つ“うまみ”のあるものを優先したということです。
また、片山慎三の映画は期間が必要なんだということを、片山さんの商業作品1本目として知らしめておきたかったんです。
『さがす』©2022『さがす』製作委員会
Q:撮影期間が増えることで、納得いくまでテイクを重ねられたり、撮影場所を増やしたりすることができると思いますが、他にはどんなメリットがあるのでしょうか。
池田:少人数スタッフにもメリットはあります。特に今回はコロナ禍での撮影だったので、人数が少ない方がやりやすいことも多かったです。物事をシンプルに考えると良い事もいっぱい出てきますよ。例えば狭い部屋で撮影する時はスタッフの人数が多いほど作業効率も落ちる。でも人が少なかったら作業効率は上がるんです。また、人数を減らすことによって、現場にいるのは顔見知りのスタッフばかりで片山組の味方しかいない。人数が多いと、作品に向き合っていないスタッフも絶対的にいるんです。
実はこの少人数制は(僕が師事した)木村大作さんの組も同じです。5~60年もの間カメラマンを続けて来た人が、最終的に選んだ組の形が15人程度なんです。大作さんは言います。「50人スタッフがいて作品に向き合っているのが30人、残りの20人が向き合っていなければ、15人しかいなくても皆が作品に向き合っている場合とどっちが強いのかな」と。
大作さんが監督・撮影した『劔岳 点の記』(09)のエンドクレジットには、「キャスト・スタッフ」ではなく「仲間たち」と書かれています。大作さんの仕事を間近で見ていると、この15人の組にはきっと何かあるんだろうなと感じていたので、今回の少人数制も抵抗はありませんでした。
『劔岳 点の記』予告
Q:『剣岳 点の記』のような規模の大きな映画で少人数スタッフだと、それはまた大変ではないですか?
池田:僕が参加したのは『春を背負って』(14)でしたが、確かに撮影は大変なんですが、終わるのは早いんです。また、『剣岳 点の記』のときは撮影助手3人くらいで、フィルムカメラを3〜4台扱っていましたが(※通常は1台のカメラに助手が2〜3人つく)、1日に撮る分量がそれほど多くないので、じっくり時間をかけてライティングとカメラポジションの調整ができて、1〜2テイク回すと終わりみたいな感じだったそうです。その辺は木村組と片山組は似ている感覚がありますね。