ポテンシャルが引き出される理由
Q:スタッフの「作品に向き合っている」というのは、「監督と向き合っている」ということでもあるのでしょうか?
池田:監督のために頑張れることは、映画が良いものになる条件だと思います。自分の方に向いてもらう気質を持っているかどうかは、監督というポジションでは大事なことですね。スタッフが50%の力しか出せない監督もいるし、120%の力を引き出す監督もいる。片山さんや大作さんの現場では、美術も、衣装も、録音も、みんな自分のハードルを越えながらものを作っている。だからスタッフ個人の持っている能力が少しずつ上がっていくんです。それが重なり作品のクオリティに繋がっていく。どんなにスタッフが多くても各々のポテンシャルが発揮できないと、作品のクオリティは上がらないんです。
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Q:片山監督の現場では、なぜポテンシャルが引き出されるのでしょうか。
池田:普通の現場では、「監督、これで良いですよね?」「はい、それで良いです」のような会話が交わされることが多いのですが、そういう会話をすればするほど「監督が良いと言った」とある種の逃げ道ができるんです。会話をすること自体は、仕事としては間違ってはいないのですが、そういう会話をせずに作品に臨む場合は、スタッフ自ら考える必要が出てくる。「このシーンはどうしよう」「この撮影はどうしよう」「機材はどうしよう」と、全て自分の判断にかかってくる。監督と話さないことで、あえて逃げ道を絶って作品に臨んで行く感覚がありますね。
Q:確かに冒頭でも、片山監督とは会話は多くないと。
池田:片山さんの場合はある程度委ねられるので、細かいカットやアングルの方向なども「まず見せる」ことから始まるんです。片山さんは、カメラワークとお芝居を連動させる人なので、もちろん彼自身にも考えはありますが、先にスタッフから考えたことを提示して、それが違えば違うと言う会話の順番になるんです。監督にどうしたいかを聞いて、それを表現してあげるという順番にはならない。