脚本を“映画”にすること
Q:他の方が脚本を書かれる場合と、ご自身で脚本を書かれる場合、演出する際に違いなどはありますか。
大九:演出する時の違いはありません。誰が書いていたとしても、脚本は一度壊すことが多いです。その時の一番面白いものを探したいので、脚本をそのまま描くことを正解だとは思っていません。ただ今回は、私の作品の中では(脚本を)あまり変えなかった方かもしれません。この作品はパズルのようになっている群像劇なので、そこは変えようがなかったんです。
Q:過去にもシソンヌのじろうさんが手掛けた脚本を監督されています。芸人さんが手掛ける脚本について、特に「笑い」の部分を読み解くのには、ご自身がお笑い芸人だった経験は活かされるのでしょうか?
大九:いや、何も活かされないですね。私は、芸人になろうと浅はかに試したものの、挫折しただけの一般人なので…、「読み解く」なんて恐れ多いです。いただいた材料を使って、自分が面白いと思う映画を全力で構築するだけですね。
『ウェディング・ハイ』©2022「ウェディング・ハイ」製作委員会
Q:出てくるキャラクターたちは、バカリズムさんのコントにも出てきそうな感じで、その辺は脚本家の顔が見えた感じがしました。
大九:一心不乱に自己実現に走る人たちなど、ああいう面白さは最高ですよね。それぞれのキャラクターは、もう存在自体が面白いんです。そんな中でも、片桐はいりさんにやってもらった新婦の恩師役は、バカリズムさんにお願いして追加で作ってもらったキャラクターです。自己実現のために全力で笑いを担う男たちがいる中で、他者のために祈る素敵な大人の女性に出てきて欲しかった。そのことで映画がさらに豊かになる確信があったんです。
“笑い”に関してはたくさん材料をいただけたので、あとはこれを“映画”にするのが私の仕事だと思っていました。映画を観て笑っていただければそれだけでも十分なのですが、そこに何か一つお土産を渡したい。それが、映画的なカタルシスを感じてもらうことなのかなと。そしてそれこそが、私がやる意味だなと思っていました。