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新たなスタンダードを描いた『THE BATNMAN-ザ・バットマン-』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.66】

新たなスタンダードを描いた『THE BATNMAN-ザ・バットマン-』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.66】

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全く新しいリドラー





 リドラーと言えばクエスチョンマークをシンボルとし、犯罪現場になぞなぞを残してバットマンを翻弄する知能犯である。映画ではこれまで『バットマン フォーエヴァー』でジム・キャリーが演じたバージョンしかいなかったので、スクリーンへの登場は27年振りとなり、ようやくキャラクター像を更新してくれた。この新しいリドラー、クエスチョンマーク柄のスーツやネクタイ、帽子もなければステッキもないが、古ぼけた上着に手書きのクエスチョンマーク、覆面の上から眼鏡という怪しすぎる格好のせいで従来よりもずっと怖く、現実世界への落とし込み方としておもしろい。全然リドラーらしくない風貌だが、犯行現場に残すなぞなぞのカードはやはりリドラーだし、なによりどんな格好でも緑色に「?」がついているとそれらしく見えてくるのだから、原作のデザインの強さも思い知る。

 

 『ダークナイト』でのジョーカーはテレビを利用した劇場型犯罪を繰り広げたが、今回のリドラーはゴッサムの世界にようやくインターネットによる劇場型犯罪を持ち込み、バットマンのヴィランとSNSとの危ない関係を見せることにもなった。その詳細やそこから得た印象は語らないでおくが、前述のような「手近にあったものを着た」ような風貌も、そこに呼応しているかのように思える。実際にこういうひとがいて、こういう目的でこういうことをしたら、きっとこんな格好をするのではないか、といったようなプロセスでキャラクターがデザインされているのではないか。とりあえず顔が隠せればいい、でも視力はよくないので上から眼鏡はかけよう。ただ単純にそうやってマスクを被っている感じが、リアルかつ怖くていい。使うのも不思議なハイテクメカなどではなく、銀色のガムテープというのが、シンプルだがインパクトがある。


 新しいリドラー像ではあるが、現実にリドラーが生きていたらちょうどこんな感じではないかとも思えてくる。この感覚は、『バットマン ビギンズ』でキリアン・マーフィが演じたスケアクロウを見たときに近いかもしれない。スケアクロウと言えば、原作では「オズの魔法使い」に出てくるようなカカシ男なのだが、クリストファー・ノーラン版によるアレンジでは、普通のスーツ姿で頭にだけズタ袋を被っているという、その不釣り合いさが変質者らしくて恐ろしいヴィジュアルだった。今回のリドラーの格好はあれに近いと思う。


 本作はペンギンやキャットウーマンといったお馴染みのヴィランも登場するが、こちらもリドラー同様に現実志向のデザインだ。ペンギンなどは、ナイトクラブのオーナーを務めるただの太ったおじさんだし、キャットウーマン(劇中ではこの呼び名は出てこず、一貫してセリーナと本名で呼ばれる)はなんだかほっかむりみたいな目出し帽を被った泥棒である。全体的に見て「変な格好」なのはバットマンだけと言っていいのだが、不思議と地味な造形であるはずのヴィランたちが、育ちすぎた巨大なコウモリと並んでもひけを取らないのは、やはり役者たちの力だろうか。いずれにせよ、現実志向のアレンジを施された本作のキャラクターたちは、同様にリアリティを重んじていたノーラン版とはまた違ったイメージを見せてくれる。


 こうなるとノーラン版でもリドラーが見たかったものである。おそらくはスマートなスーツ姿だったのではないか。そしてさぞ頭がよかったことだろう。




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