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新たなスタンダードを描いた『THE BATNMAN-ザ・バットマン-』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.66】

新たなスタンダードを描いた『THE BATNMAN-ザ・バットマン-』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.66】

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戦車ではなく愛車





 今回心惹かれたのはバットモービルである。もちろんぼくの中では1989年版のバットモービルが至高なのだが(あれを超えるものが今後出てくるのだろうか)、それでも今回の新しいバージョンも全く違う魅力がある。


 ノーラン版のバットモービル(原型となった装甲車に因んで「タンブラー」とも呼ばれる)がほとんど戦車のようだったのは、ノーランならではの理詰めによるところが大きいだろう。ウェイン社の倉庫に眠っていた頑丈な装甲車の試作品が、ブルース・ウェインの求めるものと合致したからこそ生まれたタンブラー・バットモービルに対し、今回のバットモービルはザ・バットマンならぬザ・クルマ。バットマンらしさといえば後部が翼のように尖っている程度(もちろんこれまでのバットモービル同様火をふきながら走るが)で、ほとんど装飾らしいもののないそのシルエットはちょっとスタイリッシュな車といった感じだ。タンブラー版のようなタフさも、89年版のような多様なギミックもなさそうだが、これはこれで本作のバットマンには似合っている。


 いわゆるアメ車のマッスルカーのような雰囲気だが、これは恐らくバットマンの戦闘車というよりは、探偵が乗り回す愛車といった趣が強いのだろう。そして思い出されるのは、1960年代のTVシリーズ版のバットモービルである。バットマンと相棒ロビンが仲良く乗り込む黒い車体に赤い縁取りのオープンカーだが、こちらも89年版以降のバットモービルに比べれば普通の車寄りの造形だ(ベースとなったのは1955年にフォードが発表したコンセプトカー)。今回のものすごく車なバットモービルも、あのようなイメージに立ち返っているのかもしれない。


 ブロロロロロロオオと唸りながら悪党を追い回す姿はかっこいいのだが、バットモービルのお約束である後部から噴き出す炎が今回は青白いのも新しい。闇の中で青い炎を吹きながら走る姿は、なんだか幽霊的な雰囲気がある。タンブラー版ももちろんそうだが、追いかけられたら恐ろしいというのも、バットモービルとしての必須条件だろう。映画を見る前は「車じゃん」などと思っていたが、観た後だと俄然プラモデルかレゴブロックのセットが欲しくなった。


 まだまだ語りたいことはある。一番好きなヴィランであるペンギンについてももっと掘り下げたいし、アンディ・サーキス扮するややワイルドな感じのアルフレッドも忘れられない。なによりウェイン邸(少なくともその内装)が再び禍々しさのあるゴシック建築風になっているのが個人的にはうれしい。バットマン、いやブルース・ウェインはやはりこういう古城のような住処で、昼は吸血鬼のように眠っているのがお似合いだ。バットマンの秘密基地であるバットケイブに関しては、ローテクとハイテクがいい具合に入り乱れていて、ノーラン版よりも好きかもしれない。


 とにかくこうしてバットマンの新しいスタンダードに出会えて非常に幸福を感じる。このシリーズなら追いかけたいと思える。なにより久しぶりにバットマンのいるゴッサム・シティが見られたのがうれしい。架空の街で、その時々でいろいろな顔を見せる街だが、どこか懐かしい場所とさえ思えるのがいい。こうして考えてみると、自分はバットマンにだいぶ思い入れがあることがわかる。お帰りなさい、バットマン。




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イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。

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