日本在住のクルド人少女を通して描かれる日本の今。映画『マイスモールランド』は、少女の日常を瑞々しいタッチで描く一方、日本の抱える問題を鋭く炙りだす。その内容は海外でも高く評価され、ベルリン国際映画祭/アムネスティ国際映画賞スペシャル・メンションに輝いた。手掛けたのは、是枝裕和監督が率いる映像制作集団「分福」に所属する川和田恵真監督。本作が商業映画デビュー作となる。
そんな本作の企画・プロデュースを手掛けたのが北原栄治氏だ。同氏は「分福」の立ち上げから参加し、是枝裕和監督や西川美和監督の作品に携わってきたプロデューサー。「分福」では本作をはじめ、広瀬奈々子監督の『夜明け』(18)など若手監督のデビュー作も手掛けてきた。「分福」擁する監督たちの作品は、ベテラン・若手問わず国内外での評価がとても高いが、それを支えてきたプロデューサーが果たした役割とは何だったのか? 本作の製作過程を中心に話を伺った。
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分福全員の中から決まった企画
Q:本作では企画プロデューサーという役割ですが、いわゆる「プロデューサー」とどんな点が違うのでしょうか。
北原:企画プロデューサーって、要は映画作りの最初の部分の担当なんです。分福では定期的に企画会議をやっていて、そこで5年くらい前に川和田が出した企画がこの映画のはじまりでした。その会議では是枝や西川をはじめ若い連中も含めた全員が企画を出しあい、それぞれの企画について皆で話し合います。川和田の企画は最初からほぼこの映画の原型になっていて、内容も素晴らしかった。それで「この企画を映画にしよう」と決まったんです。そこから僕も加わって川和田と一緒に脚本作りを始めました。
『マイスモールランド』©2022「マイスモールランド」製作委員会
Q:その企画会議では是枝さんも西川さんも企画を出すのですね。
北原:出しますね。『万引き家族』の原型になった企画も、西川の『すばらしき世界』の最初の脚本も企画会議に出されています。若手の企画で長編映画になったのは、『夜明け』と『泣く子はいねぇが』(20:佐藤快磨監督)、そして今回の『マイスモールランド』の3本です。
Q:その会議の段階から『マイスモールランド』というタイトルは決まっていたのですか?
北原:いや、タイトルは違ったような気がします。ほぼ今のタイトルに近い「私の小さな国」だったかな。これだと一緒ですね(笑)。そういう意味でも最初から最後まで芯の部分はブレなかった。それはすごく良かったと思います。