1924年、イギリス。静謐で美しい田園風景を舞台に描かれる、官能的な秘密の恋。映画『帰らない日曜日』は、ブッカー賞作家グレアム・スウィフトの傑作小説「マザリング・サンデー」の映画化だ。手掛けたのは『バハールの涙』(18)が国際的に高い評価を受けたエヴァ・ユッソン監督。原作小説を見事に映像化し、まるで絵画のような世界の中で繰り広げられる、知的で官能溢れる人間ドラマを作り上げた。
オデッサ・ヤングとジョシュ・オコナーという才能あふれる若手から、コリン・ファースやオリヴィア・コールマンなど超一流のベテランまで、俳優陣の抑制された演技も作品の世界観をさらに上のレベルへと押し上げている。
エヴァ・ユッソン監督はいかにして『帰れない日曜日』を作り上げたのか?話を伺った。
『帰らない日曜日』あらすじ
1924年、初夏のように暖かな3月の日曜日。その日は、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される〈母の日〉。けれどニヴン家で働く孤児院育ちのジェーンに帰る家はなかった。そんな彼女のもとへ、秘密の関係を続ける近隣のシェリンガム家の跡継ぎであるポールから、「11時に正面玄関へ」という誘いが舞い込む。幼馴染のエマとの結婚を控えるポールは、前祝いの昼食会への遅刻を決め込み、邸の寝室でジェーンと愛し合う。やがてポールは昼食会へと向かい、ジェーンは一人、広大な無人の邸を一糸まとわぬ姿で探索する。だが、ニヴン家に戻ったジェーンを、思わぬ知らせが待っていた。今、小説家になったジェーンは振り返る。彼女の人生を永遠に変えた1日のことを──。
Index
集団的トラウマが作り出す“時代の空気”
Q:原作を読まれたときの印象はいかがでしたか。
エヴァ:すごく感動しました。読んだ当時は身近な人を亡くして喪に服していたので、自分の状況と小説の内容がシンクロし涙が流れてしまいました。また、この小説は映像化しやすいタイプの作品で、多くの人が共感できる内容だと思いました。
Q:イギリスの美しい田園風景の中に漂う、戦争後の物悲しい雰囲気がとても印象的でした。
エヴァ:実はその雰囲気は、撮影した時期の影響が大きかったのです。この映画を撮影したのは2020年の9月で、当時のイギリスはコロナウイルス感染対策のためロックダウンの真っ只中でした。当然人々は表にあまり出ておらず、あの独特な寂しい雰囲気はまるで戦時中のようにも感じられました。
プロデューサーに「あまりにも雰囲気が寂しすぎるから、もう少し印象を変えた方が良いのではないか」と言われましたし、特にジェーンとポールのシーンは暗くなり過ぎないように気をつけましたね。
『帰らない日曜日』© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021
Q:それはとても珍しい経験ですね。現代と第一次世界大戦直後で時代が違うにもかかわらず、似たような雰囲気が醸し出されてしまった。何か因縁めいたものを感じます。
エヴァ:仰るとおりレアな経験でした。戦争では集団で被害に合うという「集団的トラウマ」を経験することになりますが、現代のパンデミックでも「集団的トラウマ」を経験させられていた。それが似たような“時代の空気”を醸し出したのだと思います。
第二次世界大戦以降は、「集団的トラウマ」を世界的に経験していなかったと思うのですが、私たちは今回のパンデミックでそれを経験してしまったんですね。