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  3. 『峠 最後のサムライ』監督:小泉堯史 × 撮影:上田正治 × 編集:阿賀英登 写すものをきちんと作る【Director’s Interview Vol.218】
『峠 最後のサムライ』監督:小泉堯史 × 撮影:上田正治 × 編集:阿賀英登 写すものをきちんと作る【Director’s Interview Vol.218】

『峠 最後のサムライ』画面向かって左から編集:阿賀英登、監督:小泉堯史、撮影:上田正治

『峠 最後のサムライ』監督:小泉堯史 × 撮影:上田正治 × 編集:阿賀英登 写すものをきちんと作る【Director’s Interview Vol.218】

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映画を観てくれることが力になる



Q:昔のフィルム編集から比べると、今はデジタル編集となり、細かいカット割りやトライ&エラーを重ねて試行錯誤できる回数も飛躍的にあがったかと思います。昔と今を比べての編集作業はどう変化しましたか? 


阿賀:アビッドのデジタル編集に関して、私自身は1994年のNHKの連続ドラマから使っていました。映画では『雨あがる』の予告編の時にアビットで編集しましたが、当時はアビッドの編集ラッシュはモニターでしか見ることが出きず、スクリーンでの試写が出来なかったので、映画本編で使うことは論外でした。今回も小泉さんも私も当然、フィルム編集を考えていましたが、そもそもフィルム編集をする場所がないと東宝から言われてしまいました。それで今回はアビッドで編集をしてみたのですが、使ってみると解像度が数段レベルアップしていて、スクリーンでの試写も許容範囲内でした。


アビットになって効率は各段に良くなり、助手も一人いれば大丈夫です。一番の利点は音楽を合わせることができること。それと台詞と音のバランスが取れることです。オーバーラップやタイトル等のエフェクトも瞬時に見られるので便利でした。


編集で試行錯誤することはあまりなくて、1回目の編集から変えることはあまりありません。黒澤さんもそうでしたが、小泉さんもシーンの狙いが伝わっていれば1コマ2コマにこだわるようなことはなく、そこは編集者に任せてくれますね。


Q:フィルム撮影についても教えてください。フィルムで撮影されたと言うことは、ラッシュを確認しつつ色などはタイミングで決められたのですか?


上田:今はもう仕上げの連中もね「ここは何色にだって出来ます」って人ばっかりになっちゃったからね。だから何色に撮ってもいいんですよ。全部直してくれるんだから。ここは赤にしてくれって言えば真っ赤になるしさ。そういう時代だからね。だから現場で工夫が無い。「ここは後で直します」「なんか邪魔な物があったら消します」って。だったらどこにも行かないで全部東京で撮っちゃえばいいんだから。そういう時代になっちゃったんですよ。


今はそれが当たり前の時代の中で育つからね。もう下の世代なんて育たないですよ。それが当たり前だと思っちゃってるから。だから俺なんかが何か言えば頭おかしいんじゃ無いかって言われるよ。「まだあんなこと言ってるよ」って。「今はそんな時代じゃ無いんだよ」って若い連中に言われてますよ。


Q:今の技術は確かにそうなっていますが、皆さんが撮りあげた画は圧倒的です。画自体に説得力があるから誰も文句は言えないのではないかと思います。


上田:この映画に対してはそういう答えになるかもしれないけど、他の映画はそうじゃないよね。うちの近所の映画館なんて、今はマンガばっかりやってますよ。皆そういう映画しか観ない時代になっちゃったからね。それで映画を観てますって、冗談じゃないよ(笑)。そういうことをぬけぬけと言うから、もう駄目なんですよ。いくら言ってもね。



『峠 最後のサムライ』©2020「峠 最後のサムライ」製作委員会


Q:『影武者』のときも日本では予算が集まらず、海外からの評価の方が高くて、コッポラやルーカスが資金援助をしてくれた経緯もあります。海外からは見ると皆さんはレジェンドだったりするわけですから、リスペクトを持って観てくれると思います。


上田:アメリカも今はマンガばっかりじゃないの(笑)。


Q:確かにその傾向はありますけどね。


小泉:そんな中でこういう企画をきちんと立ち上げてくれたのは嬉しいですよ。最初はなかなか進まなくて、もうダメかなって諦めていたのですが、役所さんが本当に気に入ってくれて、それで頑張ってやってみようと。


こういう映画を立ち上げてくれるというプロデューサーがいなかったら、僕らは何も出来ないんですよ。この脚本に対して手を上げてくれる人がまだいるってことが非常に大きな救いですよね。この映画を観て、こういう映画を作るんだったら、もうちょっと助けてあげようかと。そういう人が出てくるのが、映画を作る上では大きな支えになっていくんです。


もちろん映画も産業だから儲かる必要がありますが、映画を支えてくれる人たちがいかに広がっていくかということも大事だと思いますね。これから映画会社もこういった映画を頑張って作ってくれればなと。マンガで儲けてもいいけれど、こういうのも作ろうよって思ってくれれば非常に嬉しいし、そのことで技術を継承してゆくことも可能になってくる。だからそういう雰囲気でも生まれれば嬉しいんです。


この手の映画は、企画を立ち上げても映画製作へ漕ぎ着けるのが非常に難しい題材なんです。それをなんとか立ち上げて、これだけの予算を確保してやってくれたというのは。僕らスタッフにとっては非常に嬉しいこと。それが少しでも次に続けばいいなと。だから「この映画を観て良かった」と言ってくれる人がいることは、それだけでも僕らにとっては大きな力になるんです。





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