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『峠 最後のサムライ』監督:小泉堯史 × 撮影:上田正治 × 編集:阿賀英登 写すものをきちんと作る【Director’s Interview Vol.218】

『峠 最後のサムライ』画面向かって左から編集:阿賀英登、監督:小泉堯史、撮影:上田正治

『峠 最後のサムライ』監督:小泉堯史 × 撮影:上田正治 × 編集:阿賀英登 写すものをきちんと作る【Director’s Interview Vol.218】

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『峠 最後のサムライ』を観て驚くのはその“本物感”。小泉堯史監督を筆頭に、往年の黒澤組スタッフが手掛けた画作りは見事としか言いようがなく、特に『』(85 監督:黒澤明)で第58回アカデミー賞撮影賞にノミネートされた上田正治氏の手がける画は圧倒的だ。2022年の今、日本映画でこのクオリティが見られること自体、驚きしかない。そこには諸事情(主に予算)により日本映画が失ってしまったものが、その名の通りフィルムに焼き付けられている(本作は35mmフィルム撮影)。


今回は、監督:小泉堯史、撮影:上田正治、編集:阿賀英登の3氏にインタビュー。今このご時世では辛辣とも受けとめられる発言も所々見られたが、それも映画を愛するがゆえ。経験値に裏付けされた言葉は強い説得力を持つ部分もあり、貴重な意見として聞かせていただいた。伝説とも言える作品に携わってきた方々の映画にかける思いとは? 黒澤明監督と仕事をしてきたレジェンドたちの言葉をぜひ聞いていただきたい。 



『峠 最後のサムライ』あらすじ

慶応3年(1867年)、大政奉還。260年余りに及んだ徳川幕府は終焉を迎え、諸藩は東軍と西軍に二分していく。慶応4年、鳥羽・伏見の戦いを皮切りに戊辰戦争が勃発した。越後の小藩、長岡藩の家老・河井継之助(役所広司)は、東軍・西軍いずれにも属さない、武装中立を目指す。戦うことが当たり前となっていた武士の時代、民の暮らしを守るために、戦争を避けようとしたのだ。だが、和平を願って臨んだ談判は決裂。継之助は徳川譜代の大名として義を貫き、西軍と砲火を交えるという決断を下す。妻を愛し、国を想い、戦の無い世を願った継之助の、最後の戦いが始まった……。



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指示がなくても出来上がる“画”



Q:画面構成における、奥行き、レイヤー、動きが見事でした。画はどのように決めて撮影されていたのでしょうか。


小泉:僕は絵コンテを描いたことがないんです。この組(小泉組)だと画角って自然に決まってくるものなんですよ。


Q:調練場で役所さんと榎木さんが話すところなどは、お二人が話している手前で鉄砲の訓練が行われているという複雑な構成になっていますが、現場ではどのような段取りで撮影が進められるのでしょうか? 

 

小泉:いや、別に段取りは何も大変じゃないですよ(笑)。演じている人がうまいからね。あのシーンは、手前の兵隊たちを自然に動かして、奥を動かしてとそれくらいですね。スタッフと話す内容もシンプルですよ。


Q:カメラの台数も多いでしょうから、撮影の段取りも複雑なのかと思いました。


上田:基本的にカメラは3台。だから複雑でも何でもない。俺たちはそれが普通だと思ってるけど、今はそれが普通じゃないだけ。


Q:編集ではあまりカットを割らず、正面から捉えたカットでじっくり見せる印象がありました。3カメであれば、素材は多かったのではないでしょうか。  


阿賀:小泉作品の場合は中高年層のファンが多いので、あまりパカパカ短くはせずにゆったりとした分かり易い流れにしようとしています。


ちなみに初めの編集は間もゆったりラフに繋ぐんです。たまに、この時点で「タルイ」などと言ってくる人もいますが、無視します。(笑)。ちなみにテレビの連続ドラマの場合は試行錯誤する時間が無いので、初めからタイトに繋ぎます。映画の場合は全体を見て、構成、リズムを見極めてから切り始めます。当然、カットするシーンや順番の入れ替え等もあります。最終的なブラッシュアップは音楽が入る場所が決まってから作業します。少し長いかなと思われてるカットが、音楽が入ってぴったり収まると編集者としては嬉しいですね(笑)。



『峠 最後のサムライ』©2020「峠 最後のサムライ」製作委員会


Q:炎や、光、煙の表情もとても豊かでした。人物の状況や内面をそのときの背景でも表現している。この辺はどのように話されて撮影されているのでしょうか。


上田:その辺は言われなくても周りの連中は皆分かっているんですよ。こっちから指示しなくても皆やっていて、現場でその画が出来上がっている。だからそれを撮るだけなんです。


小泉:準備されている現場(セット)は、監督から見てもカメラマンから見ても不自然な所は何もない。カメラも阿吽の呼吸で良いポジションに行ってくれるから、もう後は撮るだけですね。確かに光が差し込んできれいな画になっていますが、でもそれは別に打合わせてそうしていることじゃないし、この場所だったらこういう風に撮るだろうなと、皆がそう思っているということなんです。


Q:煙などは効果で作られていると思いますが、その辺も同じでしょうか。


小泉:そうですね。ロケハンしたときにカマドがあるのが分かったので、そういう現場の状況をみんなきちんと活かしてくれているんです。だから、こうしてくれああしてくれと言わなくても、美術は美術なりにその画を作るにはどうしたらいいか、きちんと考えている。その上で煙や湯気が立つようなことを全部準備してくれているわけです。


Q:松たか子さんと香川京子さんがお寺で並んで話している際、お二人の前を絶妙な雰囲気で虫が舞っていますが、あれは実際に現場で飛ばされたのでしょうか?

 

上田:あれは飛ばしたんです(笑)。


小泉:そんなことはない(笑)


Q:本当にいい感じでふわっと飛んでますよね。一瞬花びらなのかなと思うぐらいきれいでした。


上田:あれはまさに自然なものを撮りましたね。


小泉:距離感も含めてそういう空気感みたいなものは非常に大事ですよね。


Q:煙や虫も含めて一つの画となっていて、画全体が完璧に調和しています。そういった要素が画の中で重なってゆくというのは黒澤監督の作品でも特徴的ですが、最近の日本映画ではあまり見かけない気もするので、とても印象に残りました。


小泉:そう観てもらえたら嬉しいですよね。全カット隅々まで、スタッフは本当に気を配っています。包帯一つ巻くことだったり、小道具を置く場所だったり、後ろの柱が光ってなければ、スタッフ皆で磨いたりね。写るところ全部に行き届いています。うちの組では皆がごく普通にそれをやってくれるわけです。


Q:監督が細かく指示しなくてもそれが場として出来上がっていると。


小泉:僕らでもスタッフと一緒に柱を磨いたりしますから(笑)。皆本当のプロフェッショナルで、職人の集まりなんです。プロの人たちが集まってくれているから、何も言わなくても分かってくれる。皆鍛えられているんです。そういう人じゃなければ、煙一つも立てることが出来ないわけですから。





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