©Haven Productions Ltd.
『時代革命』キウィ・チョウ監督 人生のリスクを省みず、映画監督として伝えたかった【Director’s Interview Vol.232】
映像に出せなかった若者たちの悲痛な顔
Q:初のドキュメンタリーということで、全体の構成をどのようにイメージして臨みましたか?
チョウ:ドキュメンタリーだからといって台本が存在しないわけではありません。作品の構成、計画はしっかり考えていました。最も重視したのは、デモの全体像を伝えること。先ほど話したように、今回の香港のデモには本質的なリーダーが存在しません。ですから特定の誰かをフィーチャーせずに、できるだけ多くの人たちを取材することが大切でした。結果的に完成作には20名のメインの人物が登場します。実際には、さらに数名を追いかけましたが、全体の構成を考えて20名に収めました。
Q:映画の中の証言者たちの中には、マスクや仮面で顔を覆い、素顔を出さない人もたくさんいます。その理由も十分に理解できます。
チョウ:映画の冒頭にも字幕で示しましたが、後に連絡をとれなくなった証言者を、俳優の姿に変えました。それは1人だけです。声だけは本人のものを使って、映っているのは別人です。
『時代革命』©Haven Productions Ltd.
Q:この『時代革命』には、たとえば大規模な衝突が起こったらその現場に急行して撮ったかのような映像があったり、ドローンによる上空からの撮影があったりと、撮影もかなり大がかりに行われた印象を受けます。
チョウ:私は車を保有していないので、機動的に移動することはできませんでした。ですから偶然に撮れた映像も多いですし、8〜10人のカメラマンを雇っており、彼らの映像もたっぷり使っています。インタビュー対象者の周辺で起こったことは、私が撮影しました。
Q:デモの前線での撮影では危険も多かったのでは?
チョウ:もちろん自分の身の安全を守ることは重要でした。ケガにつながるリスクもありますから。ただリスクという点では、映される側の人たちの方が大きかったはずです。その後の編集で顔が見えないように処理するにしても、実際に私は素顔の彼らに接し、普段の服装も認識しています。そうした情報が外部に流れ、処理する前の映像が没収されたりしたら、彼らにどんな危険が及ぶのか……。そのリスクをお互いに覚悟するうえで、彼らとの深い信頼関係を築くことが重要でした。
Q:われわれが完成作で観ることができない彼らの「顔」に想像が広がります。
チョウ:警察に引きずられる際の顔。逮捕された瞬間の顔。自ら出頭するべきか悩む顔。過酷な脱出を試みるか迷う顔。とくに10代の若者たちの顔は、今でも私の脳裏にやきついています。そして、その顔を映像で出すわけにはいかず、自分の胸の内にしまっておかなくてはなりません。顔を出さず、彼らの無念をどうやって伝えるか。そこに監督としての私の強い思いが宿っています。