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『時代革命』キウィ・チョウ監督 人生のリスクを省みず、映画監督として伝えたかった【Director’s Interview Vol.232】

©Haven Productions Ltd.

『時代革命』キウィ・チョウ監督 人生のリスクを省みず、映画監督として伝えたかった【Director’s Interview Vol.232】

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いつかこのデモを劇映画で描きたい



Q:こうして香港のデモを観ていると、若い世代の政治意識の高さに驚かされます。日本とはまったく違うので……。


チョウ:じつは香港の私の世代(1979年生まれ)も、彼らがなぜここまでやるのか、その行動にびっくりしているのです。でも彼らにインタビューしていくと、歴史や政治など香港についてかなり勉強していることがわかりました。香港は高度な自由をもちながら民主政治が行われていない現実に対し、これまでもデモが起こっており、それを若い世代が受け継ぎ、新たに構築した印象です。そしてもう一点、香港人は何に対しても反応が速いんです。知り合いが逮捕されたら、すぐに何か行動を起こそうとする。2019年のデモで、その気質に目覚めた人も多いのではないでしょうか。


Q:デモに参加した人たちが香港の映画館で本作を観られない現状を、どう受け止めていますか?


チョウ:撮影時は国家安全維持法の施行前でしたが、劇場で上映できないことも薄々予感していました。というのも、私が5人の監督の一人として参加したオムニバス映画『十年 TEN YEARS』(15)は、香港の電影金像奨で最優秀作品賞を受賞したにもかかわらず、香港で上映できない映画館もあったからです。今回も上映できないと知らされた時は、予想どおりとはいえ苦々しい思いでした。やはり映画監督ですから、自分の作品が大きなスクリーンで上映されることが本望です。本音を言うと、これから映画館で『時代革命』を観られる日本の皆さんがうらやましいですね。



『時代革命』©Haven Productions Ltd.


Q:『時代革命』は香港で上映される予定はなさそうですが、各国での上映は広がりそうですか?


チョウ:カンヌの他に映画祭では世界の20〜30カ国で上映されたはずです。一般の劇場公開は台湾、イギリス、イタリア、韓国で、そこに日本が加わるわけです。ちなみにオンラインでは英語と中国語の字幕がついたものが全世界でダウンロードできます。


Q:ただ、そのように限定された公開の場合、製作費の回収は難しいのではないですか?


チョウ:たしかにカメラマンを雇い、撮れなかった部分の映像にお金を払っています。元を取れたかと聞かれれば、ようやく最近、なんとかなったと答えることができます。海外の配給については、その収支に私はタッチしていません。また、出資者にも相応の返金がなされていますが、この映画の場合、利益を求めない出資者もいて助かっています。そして私自身は本作から収入を得てはいません。私も含め、本作の関係者やスタッフは利益など考えてはいないはずです。


Q:本作での収支はともかく、今後のあなたの監督としての活動でデメリットがもたらされていると聞きます。


チョウ:はい。現段階では私の次回作への出資者を見つけるのはかなり困難です。あるテレビ局の上層部の人が、この映画のタイトルを口にしただけで解雇になったという話も聞きました。香港では本作に関して、みな自己検閲をはたらかせている状態です。それでもいつか私は、2019年のデモについての映画を作りたいと考えています。今度はドキュメンタリーではなく、劇映画として。いつか出資者が見つかれば……という仮定の話ですが。


Q:劇映画として再び撮りたいということは、観る人に訴えたいことがまだまだたくさんあるということですね。

 

チョウ:香港にかかわらず、中国政府を支持する“親中派”の人は多くいますが、『時代革命』を観た親中派の人が、民主派に対しての批判をあまり言わなくなった、と聞きました。少しだけかもしれませんが、考え方を改める一助になったのです。ですから私は、映画には観た人の人生を変える力があると思います。


Q:では、あなたの人生を変えた映画は何ですか?


チョウ:『エデンの東』(55)でしょうか。私がこれを観た時、ちょうど父親との間で葛藤を経験しており、どうすれば相手を許すことができるかを学びました。主人公が僕自身に映って見えたのです。人生で最も影響を受けた一本ですね。




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監督:キウィ・チョウ

2004年に香港演芸学院電影電視学院を卒業、監督を専攻。2013年に学院電影電視学院で映画製作の修士課程を修了し、同年に個人初のロングストーリー「一個複雑故事(とある複雑な話)」を監督、37回目の香港映画祭に入賞。また同映画で2014年に芸術発展局の新人賞(映画)を受賞。2015年にオムニバス映画「10年」で、ショートフィルムの「焼身自殺者」を監督。物議を醸す映画で、中国の官報に批判したものの、35回目の香港電影金像奨で最優秀映画賞を獲得し、ネットフリックスでも上映。2020年、彼の2作目となる「幻愛」が上映後、新型ウィルス感染症においても大きな反響を得た。さらに台湾金馬奨で最優秀脚色賞を受賞、39回目の香港電影金像奨では「最優秀監督」を含め、計6つの賞にノミネートされた。



取材・文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。





『時代革命』

8月13日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開

配給:太秦

©Haven Productions Ltd.

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