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『時代革命』キウィ・チョウ監督 人生のリスクを省みず、映画監督として伝えたかった【Director’s Interview Vol.232】
いかなるリスクがあったとしても、畏(おそ)れることなく、何かを世界中に伝える。映画作家としての強い信念を貫いたのが、香港のキウィ・チョウだ。2019年、香港の民主化を求める人々による大規模なデモは180日間も続いた。その最前線での壮絶な闘いや衝撃の瞬間、さらに多くの人の貴重な証言を交えた渾身のドキュメンタリー『時代革命』。2020年夏に中国当局による香港国家安全維持法が施行され、デモが封じられたことで、この作品も完全に“封印”されてしまった。2021年のカンヌ国際映画祭や東京フィルメックスでも、上映が直前までシークレット扱いだった。当局にとっての大問題作を撮りながら、現在も香港で暮らすキウィ・チョウ監督に本作にかけた思いなどを聞いた。
Index
映画監督として社会に貢献すること
Q:あなたにとっても初めてのドキュメンタリー作品です。どのような経緯で作品に取りかかろうと思ったのでしょうか。
チョウ:2019年、香港でデモが始まった頃、冷静に抗議を行っていた人もいれば、若者を中心に激しい暴動を起こしていた人もいました。要するに香港全土で、さまざまな立場の人がそれぞれのスタイルでデモに参加していたのです。香港には「公民責任」という考え方が浸透しています。われわれ民間人は、各自の責任をもって社会に貢献するという思想です。私の職業は映画監督。自分の立場で何かできないかと考え、ドキュメンタリーを撮ることにしました。それまではフィクションの映画が専門でしたが、今回の場合は実際に起こっていることをカメラで収めたかったのです。
Q:「自分で絶対に撮る」と決意した瞬間を覚えていますか?
チョウ:そうですね。2019年の7月1日に起こったデモでは、立場新聞というメディアが香港立法会に入って携帯カメラで撮影を行い、その模様をライブ配信しました。それはまさに真実を伝える行為であり、「それぞれの職業で何か貢献できないか」という私の背中を押してくれたのです。映画人として今回のドキュメンタリーを撮ることが自然な流れになりました。
『時代革命』©Haven Productions Ltd.
Q:『時代革命』ではデモの参加者のうち数名に焦点を当て、彼らの動向を追いつつ、カメラの前で証言してもらっています。どのようなプロセスで人材を探したのですか?
チョウ:香港人であれば、誰もが身近にデモに参加している人がいるでしょう。私も知人の参加者からデモの前線に立つ人を紹介してもらい、彼らと接触するようになりました。ある日、前線に立つ20人くらいの若者たちと話す機会があり、そこで3〜4人を撮影協力者としてピックアップしたのです。その基準は、「このデモにはリーダーがいない」という意図をしっかり理解していること。つまり各自の役割を冷静に把握しているかどうか。その上で、男性と女性、つねに前線に立つ人、時には後方にまわって支援する人など、バランスを考えて決めました。