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『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』ポール・サルツマン監督 ビートルズの映画だが、若者の自分探しでもある【Director’s Interview Vol.238】
ビートルズのナンバーは強烈過ぎた!?
Q:ビートルズの楽曲使用は厳しく管理されており、実際にこの映画に彼らの楽曲は使われていません。これは本作には大きなハンデとなったのではないですか?
サルツマン:いい質問だね。この映画でビートルズの楽曲を使わせてもらうために、5年にわたって交渉を続けた。ビートルズの楽曲を管理するアップル・レコードの権利の窓口には何度も“ノー”と言われ続けた。“渡印50周年の際には考えてもいい”とも言われたが、そのときもダメだった。他のたくさんの関係者にアプローチして、ニューヨークにあるビートルズのオフィスに何度も足を運んだけれど、徒労に終わってしまった。なんとかできないかと思ったんだけどね。もちろん、ビートルズの楽曲を守り、大切に管理するのはとても良いことだと思うが、残念ではあったね。
撮影が終わって編集に入った頃、出演者のひとりでもあるデヴィッド・リンチも、映画に深く関わってくれたので、映画のことを心配してくれたよ。彼も同じような苦労をしてきた映画監督だから、私の気持ちをわかってくれたんだと思う。それで最終的に、私は完成した映画をアップルの関係者やポールに見せた。幸い、この映画を彼らは受け入れてくれたけれど、それは私にとって救いでもあった。
『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』© B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved
Q:編集時は、ビートルズの楽曲起用を想定していたのですか?
サルツマン:そうだ。楽曲の使用許可を取れるかわからないままビートルズの曲を使って編集作業を続けたよ。編集作業の終盤になって、どうやってもビートルズの曲は使えないことがはっきりした。そこで彼らの曲を本編から外し、ふたりの作曲家を招いて、この映画のためのスコアを6週間でつくってもらったんだ。結果的に、それは映画のために良かったと思う。350人の観客の前で行なった試写会では、終映後にスタンディングオベーションが起きた。とても素晴らしい瞬間で、観客が受け入れてくれたことにホッとしたよ。
思い返せば、ビートルズの楽曲は凄すぎて、それだけで圧倒されてしまう。私が本作で描きたかったのは、失恋した若者の自分探しの旅だ。インドに飛び、瞑想をして、偶然にもビートルズに出会い、貴重な時間を過ごすという、他愛のない小さな物語だ。それを踏まえると、ビートルズの強力なナンバーを使っていたら、あまりにもアンバランスで、伝えたいことも伝わらなかったかもしれない。今となっては、彼らが拒否し続けてくれたことに感謝しているよ。