誰しも逃げ出したくなることはあるが、実行することはなかなか難しい。しかし本作の主人公は些細なことで家を飛び出し、その後は居場所を転々とし堕ち続けていくーー。ロードムービーとしての側面もある本作だが、元々の原作はオリジナルの舞台。舞台上演時には一体どのように展開していたのか想像がつかないくらい、映画的な構成として再構築されている。脚本・監督は、舞台でも作・演出を務めた三浦大輔。過去にも自身の舞台の映画化を手掛けてきた三浦監督だが、今回はどのように挑んだのか。話を伺った。
『そして僕は途方に暮れる』あらすじ
自堕落な日々を過ごすフリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、長年同棲している恋人・里美(前田敦子)と、些細なことで言い合いになり、話し合うこともせず家を飛び出してしまう。その夜から、親友(中尾明慶)、大学時代の先輩や後輩、姉のもとを渡り歩くが、ばつが悪くなるとその場から逃げ出し、ついには、母が1人で暮らす北海道・苫小牧の実家へ辿り着く。だが、母ともなぜか気まずくなり、雪降る街へ。行き場を無くし、途方に暮れる裕一は最果ての地で、思いがけず、かつて家族から逃げていった父と10年ぶりに再会する。「俺の家に来るか?」、父の誘いを受けた裕一は、ついにスマホの電源を切ってすべての人間関係を断つのだが――。
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自分を投影した部分が大きい主人公
Q:逃げたいと思うことはあっても実際に逃げることはなかなか出来ません。それでも逃げ続けてしまう裕一ですが、何か共感する部分はあったのでしょうか。
三浦:僕自身ちょっと逃げ癖がある人間でして…、昔は特にひどかった(笑)。でも結局はどこかで後戻りしていたんです。怖くなって謝りの電話を入れたりとか。そうやって自分は逃げきれなかったので、逃げきった人の話を書きたかった。全部の人間関係を断った後に一体何があるのか?それを見てみたかった。この世界で一人ぼっちになってしまった感覚を一瞬でも味わえるような、そんな状況を作品にしたかったんです。
例えば誰かからLINEが来て既読スルーするのも一つの“逃げ“。そういった些細なものは誰にでもありますが、裕一のように逃げ切っちゃうのは、大人になったらありえない。でも、裕一が逃げたきっかけは、誰にでも起こりうるような日常の積み重ね。それが最大限にねじれて、ああなっただけ。それは、裕一を等身大のキャラクターにして普通の人にしたかったから。そこはこだわった点ですね。
『そして僕は途方に暮れる』©2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
Q:物語を作るにあたり、実際に逃げた人のエピソードなど参考にしたものはありましたか?
三浦:普段は取材もしますが今回は特に参考にしたものはありません。自分自身の体験に基づいた部分が大きく、あとは想像です。裕一には自分を投影している部分が大きかったので、自分の中にある要素で書き上げました。