創作されたキャラでなく、実在した人として先人を演じる
Q:決め打ちと即興のバランスは、本日伺いたかったところのひとつです。というのも、木村拓哉さんが「金平糖のくだりは脚本にはなく、現場で生まれた」とおっしゃっていて。劇中でかなり重要なアイテムなのに、ある種のその場の思い付きだったと聞いて衝撃でした。しかもこの規模の大作なわけですから。
大友:本作は京都の東映撮影所で撮影していますが、撮影所の武器は「日常から離れる」ところにあると思います。しかも東京から離れた京都にいるから、他の仕事が入ってきようがない。これだけに集中できるという環境であり、そういう場所の面白さを木村拓哉氏は「宮本武蔵」(14 TV)で体感したんだと思います。
撮影所のスタッフとの関係性もできているだろうし、どんどん面白いものが生まれてくるといいなという気持ちでこちらは見守っている。なので「金平糖はどうですか」とか「こういういうことをやってみたいんです」という提案は「遠慮せずやったほうがいい」と、とにかく出てくるアイディアはできるだけ後押しするような形ですね。インプロビゼーション(即興的に芝居を作っていくこと)的な作り方は僕好みですし、ベースメントさえ押さえていればいい。多くの知恵が集まって、とにかく映画が豊かになりさえすればいいのです。常に何かを発見しようぜ、というのは芝居だけではなく、スタッフ全員に対して共通する僕のスタンスです。
『レジェンド&バタフライ』©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
木村さんと一致していたのは、「今の我々に伝わっている革命児としての信長のイメージは、創作されたキャラクターとしての側面も大きいんじゃないか?」ということ。今現在の研究だと「(過去に作られたイメージが)そうじゃなかった」という話も出てきています。
木村さんの意識の中では、信長は私たちのいまの生活・歴史の延長線上にある実際に存在した先人であり、その想いを大切にしたいというのが彼のスタンスでした。木村拓哉というスターが織田信長というキャラクター化されたスターを使って自分のいいように創作する、という方法論とは真逆のスタンスで向き合っているんですよね。
歴史ものは、俳優の肉体を借り、撮影という行為を通して自分たちが生きていなかった・全然知らない時代を仮初にシミュレーションしていく作業でもあると思います。木村さんという俳優の肉体は、それをきっちりやってくれた一つのフィルターとして機能していて面白かったです。