「自由に動ける環境を作る」俳優演出論
Q:本番中も大友さんの「いいね!」という声が聞こえてきたという逸話を耳にしましたが、ここまでお話しいただいた通りガチガチに固めすぎず、何が生まれるかの未知の部分を大友さんご自身が楽しんでいたんだろうなと感じました。
大友:「演出」という言葉の意味合いは難しいですよね。こういった話をすると「お任せして委ねちゃってる」と解釈されてしまうこともあるから、なおさら丁寧に話さないといけないのですが――結局芝居するのは役者の仕事だから、「よういスタート」をかけちゃった後は誰も手を差し伸べることはできない。カットがかかるまでの時間は役者に託すしかない。だからこそ、スタートをかける前に、芝居しやすいコンディションを作るのが僕たちの仕事。「映像演出」と「俳優演出」はまた別ものなんですね。
「俳優演出」でいうと、例えば全員の動きをコントロールするなんてことはそんなに面白いのかな?と思ってしまいます。僕は「好きにやればいいじゃん」というタイプ。人間なんだから感情があるのが当たり前だし、信長の気持ちは僕よりも肉体を通して感じている木村さんの方がよっぽどリアルに体感しているはず。それを無理やり机上で考えたものに押し込むよりは、リアルな感情を生み出すための場を用意し、そこで俳優が身体で感じたことをそのまま表現する手助けをし、それをリスペクトするべきというのが、僕がアメリカで得てきた俳優演出論です。
「ここで橋を渡って下さい、ここで右を向いて下さい」といったようなことは俳優演出ではなく、むしろ「映像演出」の一部であると僕は思います。カット割りの構図やテンポ、間(ま)を大切にする作品ではそういった演出が優先される。ですが今回のように、木村さん自身が信長を過去に演じていて、そこに関わる知識も積み重ねてきた経験も、強い想いもある。ご自身が年齢的に信長と重なり合う部分もありますし、考えてきたことや感じることを自由にアウトプットできる現場が健全だと思います。
『レジェンド&バタフライ』©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
Q:いまのお話は「場をどれだけ作ることができるか」にも直結するかと思います。「どこをどう動いてもいいよ。自由に演じていいよ」を可能にするには、美術にしろ、そのぶん広く作る必要が生まれますよね。
大友:そうなんですけどね、そこには役者側からの歩み寄りもあって。当然現場にはバジェットやスケジュールも含め、様々な制約がありますからね。今回の撮影では、木村さんが現場にかなり早い段階で入ってきてスタッフが驚くという局面が結構ありました。まだ他の俳優が衣装も着ていないし、スタッフが仕込んでいる最中のタイミングですね。
それは簡単に言うと、現場のどこに何が置いてあってそこで信長が“普段通りに”動くとしたらどうするかを、木村さんが自分なりにちゃんと感じたい時間なんですね。それはすごく大切なことで、本来であれば監督と俳優以外のスタッフはセットから離れているべき。でも日本の場合はそういう時間がなかなか取れないため、スタッフが作業しているなかに木村さんがふらっと入ってくる状態になる。スタッフからしたら大変ですよね。ただでさえ信長になりきっちゃっていて凄味もあるし、集中力がものすごいから緊張もしたと思います。でもそれはね、本来当たり前に必要な時間なんですよね。