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『レジェンド&バタフライ』大友啓史監督 配信隆盛の世に訴える、劇場観賞の快感【Director’s Interview Vol. 277】

『レジェンド&バタフライ』大友啓史監督 配信隆盛の世に訴える、劇場観賞の快感【Director’s Interview Vol. 277】

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時代劇という枠や型に囚われない作品に



Q:ある種ミニマムな夫婦の話と、ダイナミックな画のギャップですね。


大友:そうですね。さんざん人を殺(あや)めていくなかで信長のメンタルがどんどん鬱々としていき、そこに追随していかなければならない前線の武将たちがいる。それらを際立たせていくと、長屋モノ的な夫婦の話というイメージとはまったく違った、生き残りを賭けた大きな責任を二人が背負った物語になっていきますよね。劇中で信長が濃姫に「お前のせいじゃぞ」というように、その責任を濃姫におしつけるような言葉もありますから。


男の夢を実現するために女が支えた映画ではなく、ふたりで一緒に夢見ていた天下統一のために男が奮闘するというのが『レジェンド&バタフライ』。でもその夢の重さ、その道中で起きることの重圧に夫が耐え切れず、すがってくるものも仏も自分自身で焼き尽くしてしまい、じゃあ自分が第六天魔王になると決断するけど、それが原因で唯一本音をさらせる妻とも離ればなれになってしまう。孤独にさいなまれる中で、信長は異教でもあるキリスト教を受け入れ、自らの弱さに気付く――端的にいうとそういう流れですよね。なので、夫婦という小さい単位の関係性を描きながら、より大きな背景も忍ばせて描かなければならない。その中で個々人にとって何がよりどころなのかを描いていきたいと考えていました。


身もふたもない話ではあるんだけど、男と女の在り方も含めてそこに今の時代と繋がる面白さがあるような気がしたんです。その辺が匂ってくるといいなというか、お客さんがかぎつけてくれるといいなとは思っています。



『レジェンド&バタフライ』©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会


Q:夫婦の物語の部分で白眉と感じたのは、ラブシーンの前に人を斬るアクションがあるところです。先ほどの「死体の血を吸う蝶」にも通じますが、夫婦が夢を叶えるためには他者を犠牲にせねばならない。死屍累々の上に成り立つ愛というのもまた、突き刺さります。


大友:濃姫は斎藤道三=マムシの娘と呼ばれ、これまで2回の結婚を経験しているとはいえ、最初はやっぱり“ごっこ”なんですよね。男に生まれたら、もしかしたら天下をとれるような存在であったかもしれない濃姫が、女であるがゆえにその才を生かせず、人質として送られた嫁ぎ先で夫・信長に、父の念願でもあった天下取りの夢を託していく。天下取りイコール当時でいうと戦ですから、当然多くの血が流れることになる。とはいえ、濃姫は実際に人を殺めたことはないわけです。


そんな彼女が、襲い掛かってきた相手に対し稽古時のいつもの組手のように剣を突き刺します。その瞬間、稽古で相手にしていた木人と違って、生身の身体ですから血が噴き出してくる。彼女にとって、人を殺すということのリアルに気づく瞬間ですね。その変化がすごく大事で、血を見たことがきっかけでふたりの仲が急速に近づいていく、それはこの時代ならではだと思います


政治の世界でも色々あるかもしれませんが、いまは政治のために面と向かって人を殺すことはない。でもあの時代は、天下を取るということは結局そういうことであり、濃姫は自分が信長をけしかけた結果、多くの人の命を奪っていることに気づく。自分の「天下を取れ」という言葉が、夫の手を血で染めさせることであると、身を持って知るわけですね。何かをなすためには莫大な犠牲が伴うと知り、「誰も知らない土地に行きたい」という思いがより強くなるけど時すでに遅し――というのは、今の時代を生きる多くの人たちにも引っかかるのではないでしょうか。


タイトルもそうですが、時代劇という型や枠にとらわれずに「現代のドラマ」として見せていきたいし、上手く伝わってくれるといいなと思っています。



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監督:大友啓史

1966年、岩手県生まれ。1990年にNHKに入局し、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ(01〜04)、「ハゲタカ」(07)、「白州次郎」(09)、大河ドラマ「龍馬伝」(10)などを演出。イタリア賞始め国内外の賞を多数受賞する。2009年、『ハゲタカ』で映画デビュー。2011年に独立し、『るろうに剣心』(12)、『プラチナデータ』(13)、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14)、『秘密 THE TOP SECRET』『ミュージアム』(16)、『3月のライオン』2部作(17)、『億男』(18)、『影裏』(20)など話題作・ヒット作を次々と世に送り出す。『るろうに剣心 最終章The Final/The Biginning』(21)では、2部作合わせて70億円、シリーズ累計では200億円に迫る大ヒットを記録している。



取材・文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema




『レジェンド&バタフライ』

1月27日(金) 全国公開

配給:東映

©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会

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