ヘルツォーク作品にインスパイアされた蝶のシーン
Q:合戦の後、死体に蝶が止まるシーンも印象に残りました。ずっと奥までパノラマが続いている贅沢なシーンでありつつ、作品のテーマ的な描写も内包している。
大友:「合戦シーンは必要なのか・不要なのか」はかなり話し合ったところです。最初の台本上はいくつかの合戦シーンがありましたが、合戦シーンって労力の割には報われないんですよね。群衆がワーッとぶつかり合っているだけと言えばそうですから。
そこで、戦いの後を表現しようという発想になり、その時に思いついたシーンが“蟻の兵隊”ではないですが、戦場をくたびれた兵士たちが延々と歩くイメージでした。長篠の戦いが終わった後に、信長の軍勢が死屍累々の戦場の、血に染まった川を渡ってくる。クランクイン前に撮影監督の芦澤明子さんたちに「カメラがいつの間にか信長を追い越して、その後に延々と繋がる兵隊の列を横パンしていく5分くらいのワンカットを撮りたい」なんて滅茶苦茶なことを僕が言いまして(笑)。
話を聞いたみんなはザワザワするんだけど「面白いね」という話になり、撮影が始まって2ヶ月すぎたくらいで「本当にあれをやるのか」「そんな場所があるのか」含めて、みんなで必死にロケ地を探してね、芦澤さんが「日本中からレールを集めて700メートル敷く」と言い始めて(笑)。撮影もだいぶ進んでいてみんなパツパツだから「芦澤さん、700メートルもいらないです」という言葉が喉まで出かかりましたが、「もし700メートル敷けるなら見たいな」とも思って(笑)、僕は黙っていたんです。そうしたら流石に誰かが止めたらしく、でも200メートルくらいは敷きましたかね。
『レジェンド&バタフライ』©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
蝶が死体に止まるシーンも台本にはなかったのですが、蝶には「死体の血を吸う」習性もあるということをリサーチ中に発見して。戦場で蝶が死体の血を吸う描写があったら面白いよね、と。無数の蝶が屍の戦場を群舞するイメージもあったのですが、僕はヴェルナー・ヘルツォーク監督が好きで、彼が撮ったドキュメンタリー『キンスキー、我が最愛の敵』(99)のなかでクラウス・キンスキーの肩に蝶が止まり、キンスキーがその蝶と戯れるシーンがあって。やっぱり“持っている”人にはそういう瞬間が起こるんだなと感じたことを覚えていて、このシーンを考えているときにふっとその映像が湧いてきたんですね。
普段はそこまで意識していないのですが、あのシーンにおいては、この映画の「勝負カット」という感覚がありました。それこそアクションシーンであればミラクルショットはありますが、それ以外ではなかなかここまでは意識しない。でも今回は、ことさら「大画面で映画を観るときのエクスタシー」を考えていましたね。