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『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ダニエルズ監督 アクションとギャグの究極融合を目指して【Director’s Interview Vol.289】

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『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ダニエルズ監督 アクションとギャグの究極融合を目指して【Director’s Interview Vol.289】

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チャウ・シンチーやジャッキー・チェンが僕らの原点



Q:『エブエブ』への反応の中には、今敏の『パプリカ』(06)など日本のアニメの影響を指摘するものもありますね。


シャイナート:世界中の映画のクリエイターにとって、日本のアニメが最も興味深く、スリリングなのは事実でしょう。今敏に限ってもインスピレーションを与えているのは、『パプリカ』がクリストファー・ノーランの『インセプション』(10)に、『千年女優』(01)がダーレン・アロノフスキーの『ブラック・スワン』(10)に、などいくつも挙げられます。奇想天外なアイデアにもかかわらず、物語をキャラクターが主導するところが、日本アニメの優れた点です。宮崎駿作品は、善悪がはっきり分かれる作品に慣れていた僕らアメリカ人の常識を軽々と超えていました。そして『エブエブ』に影響を与えたのは湯浅政明の『マインド・ゲーム』(04)です。初めて観たときに「何これ? 映画にルールはいらないんだ」と感激し、このような作品を実写にしたいと思いました。ハードルも高いですが、こうした挑戦こそクリエイターの楽しみです。



『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.


Q:コンビ監督として共同作業が多いと思いますが、役割分担はあるのでしょうか。


シャイナート:つねにレスリングで戦っているような感じかな……(笑)。


クワン:最初に組んだ頃は、ちょっと距離感もありましたが、12年間、一緒にやってきてお互いの特徴をつかみました。僕は今もキャスティングが苦手。でも彼(シャイナート)は俳優になるための学校へ通ったこともあり、そうした視点でのキャスティングに信頼を寄せています。


シャイナート:編集では僕がラフカットした後、ダン(クワン)が多くの素材を吟味して、正確なファイナルカットへと仕上げていきます。音楽に関しても、作曲家とのやりとりはダンがメインです。僕はプロダクションデザインが好きで、小道具や爆発の仕掛けなどを率先してやっています。


Q:『スイス・アーミー・マン』と同じく今回の『エブエブ』でも二人の作家性が前面に出ています。それは、いい意味での“バカバカしい”ギャグだと感じますが……。


シャイナート:僕らは二人ともアクションコメディ映画が大好き。しかも単に強さで勝負するアメリカ作品ではなく、チャウ・シンチーやジャッキー・チェンの作品に影響を受けてきました。その志向を初期の短編映画やミュージックビデオにも反映させ、今回の『エブエブ』では他のバースへジャンプする際に、バカバカしい行動をとるというアイデアが生まれたんです。


クワン:そして僕らはオタクですから、そうしたバカバカしさも突き詰めちゃうんです。量子力学や量子物理学、確率論などもしっかり勉強して、マルチバースの世界を図面にしたりして、気づいたら“科学オタク”になってました(笑)。ダグラス・アダムスが「銀河ヒッチハイク・ガイド」を書いていた時の気持ちもこんなだったのかな、なんて夢想しましたよ。




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脚本・監督・製作:ダニエルズ

1988年生まれのダニエル・クワンと、1987年生まれのダニエル・シャイナートによるコンビ。多数のミュージックビデオ、CM、短編映画に始まり、10年以上もの間、映画やTV番組の脚本・監督を手掛けてきた。一見ばかげた話に、心温まるパーソナルなストーリーを取り入れたスタイルで評価を高め、ユニークな視覚効果や特殊技術を用いることで、ジャンルにとらわれない作品を制作している。マンチェスター・オーケストラ、フォスター・ザ・ピープルなどのミュージックビデオの監督も務め、DJスネイク&リル・ジョンの楽曲「Turn Down For What」では、MTVのVideo Music Awardsを受賞する。この作品では、シャイナートがクワンに主役として出演するようそそのかし、結果、クワンは見事なダンスを披露している。2016年、ポール・ダノとダニエル・ラドクリフ主演の『スイス・アーミー・マン』の脚本・監督を務め、サンダンス映画祭最優秀監督賞を受賞した他、数多くの映画賞にノミネートされ、カルト的な人気を得る。その後、ダニエル・シャイナートが、『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』(19)の監督を手掛ける。



取材・文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。





『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

3月3日(金)全国公開

配給:ギャガ

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