まるで『マルサの女』(87)のような骨太な大人のドラマ。実在の事件を元にした映画『Winny』は、圧倒的にエンターテインメントで力強く仕上がっていた。本作を手掛けた松本優作監督は撮影当時20代だったという。その事実に驚きを禁じ得ない。それほど“大人の映画”としての完成度が高いのだ。実在したプログラマー金子勇を演じたのは東出昌大。その佇まいからプログラムの知識まで、心身ともに金子本人となりスクリーンに存在している。
松本優作と東出昌大、二人はいかにしてこの事件に対峙し、映画として作り上げたのか。話を伺った。
『Winny』あらすじ
2002年、開発者・金子勇(東出昌大)は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発、試用版を「2ちゃんねる」に公開する。彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。しかし、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出、次第に社会問題へ発展していく。次々に違法コピーした者たちが逮捕されていく中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまう。サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、「開発者が逮捕されたら弁護します」と話していた矢先、開発者金子氏逮捕の報道を受けて、急遽弁護を引き受けることになり、弁護団を結成。金子と共に裁判で警察の逮捕の不当性を主張するも、第一審では有罪判決を下されてしまう…。しかし、運命の糸が交差し、世界をも揺るがす事件へと発展する——。
Index
事実に忠実に作り上げた
Q:実話が元になっていますが、ドキュメンタリーの手法は取らずエンターテインメントに振り切っていたように感じました。
松本:事実と照らし合わせて出来るだけ忠実にしたかったので、あまりエンターテインメントに振り切らないようにしたつもりなんです。でもそう捉えていただけてすごく嬉しいです。基本は事実に忠実ですが、金子さんが一人で過ごしていたところなど、誰にもわからない部分は、自分たちの思う金子さん像を作り上げていきました。
Q:金子さんの映像資料はほとんど残っていない中、東出さんは金子さんを知る方々へ話を聞いて役作りをされたそうですね。ご自身の中では何をゴールに役を作られたのでしょうか。
東出:ゴールみたいなものはなかったですね。役はカメラ前に立ってお芝居をやったときに生まれてくるもの。だからゴールという感覚は違うかもしれません。とにかく現場に入る前に監督と話をして、脚本の内容やシーンの意味などを聞きました。監督とは相当話をしたと思います。
松本:東出さんは強い思いで作品に入ってくださったので、すごくありがたかった。東出さんや三浦貴大さん、弁護士の壇先生など皆とたくさん話をして作り上げた感覚があります。正解を手探りで探っていくような感じでした。模擬裁判といって当時の裁判の再現までしていただき、良い環境で撮影ができました。
『Winny』(C)2023 映画「Winny」製作委員会
Q:模擬裁判とは具体的にどのように行われたのでしょうか。
松本:弁護士の皆さんに実際の調書通りに裁判を再現していただき、それを踏まえて東出さんや三浦さんたちに実践していただく流れでした。
東出:裁判の様子を側で見ていると当時の状況が分かってくる。壇先生に金子さんの様子を聞くと、「検察の指摘に対して手を振り否定していました」「すぐ表情に出ていました」等、色々と詳細に教えてくれました。壇先生は現場にも付きっきりで、自費でレンタカーとスポットクーラーを借りてきて、暑かった現場を冷やしてくれたりもしました。もはや制作部みたいでしたね(笑)。
松本:壇先生たちとの雑談から生まれたことも多かったです。先生は大阪の方ということもあり、ラフな感じで色んなことを話してくださる。だから取材のような固い形式ではなく、「こういうときはどうするんですか」と気軽に聞くことが出来た。そうやって撮影中も実際の関係者の言葉を差し込んだりと、かなり柔軟にやれたと思います。