© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
『aftersun/アフターサン』シャーロット・ウェルズ監督 監督する人にとって、すべての作品はパーソナルなもの【Director’s Interview Vol.315】
近年、新しい女性監督の台頭が著しいが、また新たな才能が登場した。スコットランド出身のシャーロット・ウェルズの長編デビュー作『aftersun/アフターサン』(22)は、世界中で高い評価を受け、23年の英国アカデミー賞では英国新人賞を受賞。同賞の英国作品賞、主演男優賞(ポール・メスカル)、キャスティング賞にもノミネートされた。また、主演のメスカルはアメリカのアカデミー賞主演男優賞の候補にも挙がった。英国の硬派な映画誌「Sight and Sound」はこの作品を22年のベスト作品に選出している。
映画の舞台は太陽が輝くトルコのリゾート地。11歳の少女、ソフィ(フランキー・コリオ)は若き父親カラム(ポール・メスカル)と旅に出る。普段は別々に暮らしており、父は久しぶりに会った娘に深い愛情を見せる。旅の様子をビデオカメラに収め、かけがえのない夏の日々を過ごすふたり。やがて大人になったソフィは過去のビデオ映像を見つめながら旅を振り返り、かつては気づかなった父の心の痛みに思いをはせる……。
親子の絆を描いたストレートな映画に最初は思えるが、よくよく見ると、実は複雑な仕掛けがあり、見終わった後もホロ苦い余韻が消えることがない。クイーン&デヴィッド・ボウイ、R.E.M.などの既成曲の使い方も鮮やかで、歌詞に込められた奥深い意味についても考えたくなる。
密度の濃い監督・脚本作を撮った期待の新人、ウェルズが4月に初来日した。1987年生まれの彼女はオックスフォード大学やニューヨーク大学などで学んだ後、『Tuesday』(16)、『Laps』(17)、『Blue Christmas』(17)の3本の短編を手がけて評価され、今回の長編を制作した。現在はニューヨークを拠点としていて、今回の映画では『ムーンライト』(16)の監督、バリー・ジェンキンスも製作者のひとりとして名を連ねている。慎重に言葉を選びながら、快活かつ冷静に作品について語ってくれた。
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映画のヒントは父親とのトルコ旅行
Q:見ごたえのある作品でした。短篇3本も拝見したのですが、今回の新作との共通点も見出せますね。特に借金取りのクリスマスを描いた『Blue Christmas』は印象的です。短編を撮った後、長編に移行するのは大変でしたか?
ウェルズ:確かに『Blue Christmas』とは共通点がありますね。あそこで描かれたことをもっと深めようと思って撮ったのが、今回の新作です。短編と長編はまるで作り方が違うことが分かりました。その構造の違いをまずは理解しようと思いました。何か月かで撮れる短編とは異なり、何年もかかる長編はスタミナや集中力が必要です。特に大変だったのは編集の過程で、全体をまとめるエネルギーが求められます。修正箇所がいろいろ出てくるし、映画全体に影響を及ぼすので、つなぎ方も考えなくてはいけません。
Q:子供の頃の父親とのトルコ旅行が今回の映画のベースになったと聞いていますが、どう反映されているのでしょうか?
ウェルズ:最初はトルコを舞台にしようとは考えていませんでした。でも、私の判断が間違っていたんです。トルコには泥風呂やダイビングがあり、その風景も独特です。私自身がそういう旅をかつて経験していたので、こうした部分が何度も心によみがえってきました。また、トルコは西洋と東洋の中間に位置しているという理由もあって、英国の観光客の関心を引いていました。結局、この場所が舞台となりました。
『aftersun/アフターサン』© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
Q:この映画の構成はけっこう複雑で、2度目に見た時の方がより深く理解できると思いました。
ウェルズ:観客が再見することを最初から想定して作っているわけではないので、そういう構成は“賭け”ともいえますね。ただ、私自身は2度目に見た時、さらに深く理解できるタイプの作品が好きです。この映画がそうであってくれれば、すごくうれしいです。再見した時、最初とは違う見方ができるといいですね。
Q:大人のソフィの視点で子供時代の旅を見つめ直し、人物の意識を掘り下げて描くのは、けっこう大変だったと思いますが……。
ウェルズ:最初はそういう複雑な映画にするつもりではなかったんです。脚本を書いた時、もっと直線的な構成を考えていました。父と娘の普通の旅の物語です。ただ、書いていて、それではつまらないと思いました。そこで私自身のかつての想い出を振り返り、全体を構成し直しました。その結果として、記憶に関する映画になったんです。ソフィの視点が全体の中心になっていて、それはどこか時間を超えたものになりました。その視点を通じて見る人にも作品を経験してもらえる、そう感じました。