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『ヒッチコックの映画術』マーク・カズンズ監督 年を経て変わるヒッチコックへの印象【Director’s Interview Vol.358】

『ヒッチコックの映画術』マーク・カズンズ監督 年を経て変わるヒッチコックへの印象【Director’s Interview Vol.358】

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年を経て変わるヒッチコックへの印象



Q:この映画では「逃避」「欲望」「孤独」「時間」「充実」というテーマがあり、そこに「高さ」が追加されます。これはとても面白く、確かにそうだと思いました。


カズンズ:そうですよね。皆さんが“ヒッチコック”から連想するような「逃避」や「欲望」というテーマはもちろん、あまり連想しない“孤独”や“充実”という部分にも触れておきたかったんです。私はコロナ禍にヒッチコック映画を観返したのですが、あの時期、特にロックダウン中は、誰もがエモーショナルでしたよね。人間として共通する部分を皆肌で感じていた。パンデミックのレンズを通して見たヒッチコック作品には、ヒッチコックと聞いて連想しないような“人間性”を見ることができたんです。


Q:10代に観たときとコロナ禍で観返したときで、ヒッチコック映画の印象は変わりましたか。


カズンズ:大きく違いますね。自分は今58歳で10代から数えると45年近い時間が経ってしまった。その間に誰かを愛したり失ったりして生きてきたわけで、幸せな瞬間も悲しみの瞬間も経験し自分自身も大きく変わった。例えば10代の時に観た『汚名』(46)は良いスリラーだなという印象でしたが、今は観る度に泣いてしまうんです。それは“愛されていることを信じることが出来ない”というテーマだから。すごく深遠な感動がある作品だと思います。


また、私自身がファシズムについての映画を作ったこともあり、『ロープ』(48)を今観返すと、優生主義的な考え方やアンチ・ナチズム的な部分がすごくクリアに見えるようになりました。



『ヒッチコックの映画術』© Hitchcock Ltd 2022


Q:ヒッチコック映画は、今の若い世代にも訴求し得ると思いますか。


カズンズ:はい。もし今ヒッチコックが生きていたら、TikTokが大好きだったと思うんです(笑)。本人はすごく遊び心があって、広告など短い映像もたくさん作っていた。今の若者は集中力がなく、時間が短くCGが多い映画ばかりを求めていると思われがちですが、僕はそれを信じていません。例えば『サイコ』(60)などは、映画の最初に爆発的な部分があり、その後はゆっくりとした追悼を感じる作品になっていて、まるで催眠効果のようなものを感じる。私たちの世代はその雰囲気が好きなのですが、その感覚は若い人も変わらないんじゃないかな。


Q:今回の作品を作る前と後でも、ヒッチコックに対する印象は変わりましたか。


カズンズ:変わりましたね。私は、ジャネット・リーやショーン・コネリー、テレサ・ライトなど、ヒッチコック作品に関わった役者さんたちと友達だったので、彼らからヒッチコックについて色々と話を聞くことができました。彼らは皆ヒッチコックのことが大好きだったんです。また、ヒッチコックの娘であるパトリシアが、母アルマについて書いた本も読みました。娘からの視点で書かれていることもあり、ヒッチコックの人間的な面をすごく感じました。この映画を作るにあたり、これまで観たことのなかった初期のサイレント映画なども観ましたが、『農夫の妻』(28)などは本当に美しく、男女間の愛が描かれた優しい作品でした。




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