1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『ヒッチコックの映画術』マーク・カズンズ監督 年を経て変わるヒッチコックへの印象【Director’s Interview Vol.358】
『ヒッチコックの映画術』マーク・カズンズ監督 年を経て変わるヒッチコックへの印象【Director’s Interview Vol.358】

『ヒッチコックの映画術』マーク・カズンズ監督 年を経て変わるヒッチコックへの印象【Director’s Interview Vol.358】

PAGES


ヒッチコックと役者たち



Q:ヒッチコックは撮影や編集の技術を駆使して観客にテーマを語っていくわけですが、演出家として役者に芝居をつけることはあまりフォーカスされていません。その辺りはヒッチコック自身どのように捉えていたと思いますか?


カズンズ:ヒッチコックが残した有名な言葉に「役者は牛のように扱え」というものがありますが、あれは多分マーケティング的にリップサービスで言っただけだと思います。実際にヒッチコックと仕事をした役者に話を聞くと、多くの役者が彼のことを愛していたことがよくわかります。


ヒッチコックは役者に対してオーラや雰囲気みたいなものを求めていたそうです。ショーン・コネリーに聞いた話ですが、ヒッチコックに最初に言われたことは、「ディートリヒのように美しく整えた眉にしてくれ」というもの。そして「常に背筋を伸ばせ」と言われていたそうです。よって、ヒッチコックのこれらの演出法はメソッドアクターには効かなかった。『私は告白する』(53)のモンゴメリー・クリフトや、『引き裂かれたカーテン』(66)のポール・ニューマンなど、複雑な心理を表現する役者たちとはうまく噛み合わなかったんです。



『ヒッチコックの映画術』© Hitchcock Ltd 2022


Q:この映画の「5Gの携帯電話を持っている諸君は、昔の人間より洗練されているのか?」というセリフがとても印象的です。膨大なデータベースに一瞬でアクセスして分析・検証できる現代とは違い、ヒッチコックは自分でゼロから生み出した「オリジン」のように思えます。では逆に言うと、現代の映画にもはやオリジンは無くなってきているのでしょうか?


カズンズ:今の映画にオリジナル性がないとは思いません。アピチャッポンやグレタ・ガーウィグの作品、特に『バービー』(23)などはとてもオリジナルな映画ですね。『パスト・ライブズ』(23)という賞レースが期待されているA24の配給作品がありますが、それを手掛けたセリーン・ソンもオリジナリティあふれる監督です。どの時代でも、判で押したように定型に則って作られた作品はありますが、同時にイノベーションを大事にしている作品もたくさんある。それはアバンギャルドでエッジーなものだけではなく、実際にはポップカルチャーのド真ん中から生まれたりするんです。『スパイダーマン:スパイダーバース』(18)のようにね。


また、人々の映画に対するハングリーさも変わってきますよね。昔は観たい作品があっても観る手段があまりなかった。逆に今はたくさんあり過ぎる状況で、観たいと思ったら数秒で作品にアクセスできてしまう。Netflixで映画を選んでいて、気がついたら1時間ぐらい経っていたことはありませんか。それくらい圧倒的に作品数が多いからこそ、今の時代はライターやキュレーター、プログラマーなどの存在が重要になってきている。あまり良い例ではありませんが、ドラッグ・ディーラーのように「良い映画があるんだけど、ちょっと味見してみない?」って誘われて映画を一度体験してもらえると(笑)、それがきっかけとなって映画を生涯好きになってくれると思うんです。


僕にとっての映画とは、人生を一緒に伴ってくれているような存在。映画が自分の手をとってくれて、「この世界をみてみようよ!」と誘ってくれる存在だと思っています。映画は嘘もつきますけどね(笑)。でも美しい形で真実も描いてくれます。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『ヒッチコックの映画術』マーク・カズンズ監督 年を経て変わるヒッチコックへの印象【Director’s Interview Vol.358】