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『ヒッチコックの映画術』マーク・カズンズ監督 年を経て変わるヒッチコックへの印象【Director’s Interview Vol.358】

『ヒッチコックの映画術』マーク・カズンズ監督 年を経て変わるヒッチコックへの印象【Director’s Interview Vol.358】

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次に撮りたいのは今村昌平



Q:ヒッチコックを敬愛する映画監督としてはブライアン・デ・パルマが有名ですが、この映画を作りながら、ヒッチコック作品の他監督への影響を感じた部分はありますか?


カズンズ:今存在する最もヒッチコック的な監督は、『パラサイト 半地下の家族』(19)のポン・ジュノじゃないかな。また、たとえ“スリラー”という形を取っていなかったとしても、別の形で影響を受けている監督も多いです。例えば、マーティン・スコセッシの、人物の視点をカメラワークに取り入れるような部分は、とてもヒッチコック的。実はスコセッシに直接言われたんです、「映画作りを学びたいのであれば『ダイヤルMを廻せ!』(54)を観ろ」と。『ダイヤルMを廻せ!』は評価が高い作品ではありませんが、カメラをどこに置くのか、人物にどう寄っていくのかというカメラワークを学べるんです。


“日々の不安”という意味では、大島渚監督の『少年』(69)にもヒッチコックを感じますし、今村昌平監督の『人間蒸発』(67)もすごくヒッチコック的。ヒッチコックの『恐喝』と溝口健二監督の『東京行進曲』は見比べると面白いですよ。奇しくも両方とも1929年に撮られているんです。あとは黒澤明監督の『天国と地獄』とヒッチコックの『バルカン超特急』(38)、この組み合わせはマストでしょう(笑)。ぜひ日本のプログラマーにヒッチコック作品5本と日本の監督作5本をセレクトして見比べて欲しいものです。映画館を抑えてくれれば、僕がプログラムしてもいいですよ(笑)。



『ヒッチコックの映画術』© Hitchcock Ltd 2022


Q:この映画のおかげで、今までヒッチコック映画を観なかった人たちが改めて観る機会も増えそうですね。


カズンズ:何度でも観ることができて、観る度に新しい発見がある。それがヒッチコック映画だと思います。特に初期の『リング』(27)や『シャンパーニュ』(28)、『ダウンヒル』(27)などは、観る度に何かを感じることができる。彼の初期作品は、晩年のヒッチコックの名作が生まれるための肥沃な大地だったと思います。ヒッチコックはイギリス人ですが、彼はイギリスの映画作家ではなく、私たちが今いる世界全体に属している監督だと思いますね。


Q:今後取り上げてみたい映画監督はいますか?


カズンズ:今村昌平監督です。もともと個人的にも知り合いで、ご夫婦でスコットランドまで会いに来てくれたこともありました。そのときは数日滞在されましたが、その間ずっとウィスキーを飲みまくっていました(笑)。『にっぽん昆虫記』などは革命的な映画で、優れたドキュメンタリーの面も併せ持っている。すごく深い意味でフェミニストでな映画であり、主人公が社会的に低い階級にいる意味では、ある種、階級主義みたいなことにも言及している優れた作品だと思います。




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監督:マーク・カズンズ

1965年生まれの映画監督、作家。北アイルランドのベルファストに生まれ、現在はスコットランドを拠点に活動している。2004年に発表した著書『The Story of Film』が世界各国で出版されると、タイムズ紙で"今までに読んだ映画についての本の中で最も優れた作品"と評され、本著を元に製作された930分にも及ぶ超大作『ストーリー・オブ・フィルム』(2011)を自ら監督する。制作に6年の歳月をかけ、約1,000本の映画とともに映画史に隠された物語に迫った本作は、各国の映画祭で絶賛をもって迎えられ、映画教育にも多大な影響を与えた。その後、2010年以降に公開された作品にフォーカスした続編『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』(2021)は第74回カンヌ国際映画祭でカンヌ・クラシックスのオープニングを飾り、日本でも劇場公開された。その他の作品に、世界各国の映画の中で描かれる子供たちを取り上げた『A Story of Children and Film』(2013)、オーソン・ウェルズの創作の秘密を彼の個人的なスケッチブックから紐解いてみせた『The Eyes of Orson Welles』(2018)、183人もの女性監督を取り上げた14時間にも及ぶ大作『Women Make Film: A New Road Movie Through Cinema』(2019)、イギリスの名プロデューサー、ジェレミー・トーマスの軌跡をロードムービー形式で追った『The Storms of Jeremy Thomas』(2021)など、膨大な映像のモンタージュを駆使し、映画史を新たな視点から切り取る斬新なドキュメンタリーを数多く発表している。これまでの監督作は20作以上に及び、現在もコンスタントに作品を発表し続けている。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成





『ヒッチコックの映画術』

9月29日(金)新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、角川シネマ有楽町ほか全国公開

配給:シンカ

© Hitchcock Ltd 2022

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