舞台から映画へ、脚本改訂のポイント
Q:キャスティングはどのように決められたのでしょうか。
岩瀬:主演の小野武彦さんは何名か候補に挙がった中からオファーさせていただき、貫地谷しほりさん、宮崎美子さん、浅香航大さんは、プロデューサーや監督が知り合いでお声掛けしてもらいました。その他、シェアハウスの住人や他の出演者は全てオーディションで決めました。私は海外作品にいくつか参加していますが、ハリウッドや韓国などはほとんどオーディションで決まります。日本で知名度のある俳優であっても海外作品ではさほど関係なく、皆オーディションで決まっているんです。だから色んな人にチャンスがあるし、役者からしてもモチベーションが上がる。今話題になっているパワハラやセクハラみたいなものも起こり難くなりますしね。残念ながら、私たちの若い頃はそういうことは普通にありましたから…。オーディションは私の強い希望でした。
今回はコロナ禍だったので、最初はビデオオーディションで始めました。セルフテープを撮って送ってもらい、そこから選んで2次審査からは対面。これは今ハリウッドでは主流になっている方式です。監督とプロデューサーと私も入れてもらって、いろいろ協議して決めました。知り合いの役者さんや普段から舞台を見ていた役者さんたちにも参加してもらいましたが、特に何の忖度もなくその方々も決まったので、それはすごく嬉しかったです。今後、日本でも役の大小、有名無名に関わらず、もっとオーディションで決めるようになって欲しいです。
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Q:監督が久万真路さんに決まった経緯を教えてください。
岩瀬:今回のエグゼクティブプロデューサーである大和田廣樹さんは、林海象監督の「探偵事務所5 Another Story」(05 WEB)のプロデューサーをやっていて、その時に助監督で入っていたのが久万さんでした。久万さんってすごく穏やかな方なんです。私は怒号が飛び交うような現場は苦手だし、作品はあったかい感じのテイストなので、それにふさわしい方を探していたところ、久万さんの名前が挙がりました。久万さんはキャリアも長く、西川美和監督の助監督をずっとやっていたり、貫地谷さんがデビューした頃も一緒にお仕事されている。監督としてはこれまでTVドラマが多かったので、今回は長編映画ということで、よりやる気になってくださったみたいです。
Q:プロデューサー、脚本家として、久万監督にお伝えしたことはありましたか。
岩瀬:脚本を生み出すことは自分でやりますが、生まれた子を育ててくれるのは、演出家や監督、そして役者という意識があります。私自身が役者だからかもしれませんが、「こうしてください!」といった口出しはしたくない。ただ、そもそも舞台を映画化するということで、変えなきゃいけない部分が結構ありました。その辺は久万監督にアドバイスをもらいながら改訂していきました。
例えば舞台版でいうと、宮崎美子さんが演じた妻の役は登場していません。また、映画版では秀夫の息子はゲイという役どころですが、舞台ではそうではなく、飲食店をやっているだけの設定です。舞台の方は群像劇になっていて誰が主役ということではないのですが、映画の場合は主人公がいた方が感情移入しやすいし話の軸が通ると、久万監督から脚本上のアドバイスをいただきました。それで主人公の葛藤をもっと強めるため、妻を登場させたり息子の設定を変更したりしました。息子の設定変更は多様性への問題を入れたかったこともあります。そうやって久万監督とやりとりしながら、脚本を映画用に改訂していきました。脚本完成後は役者に徹したかったこともあり、現場では監督にお任せして口を出さないようにしていました。