群像劇に込めた思い
Q:それぞれのキャラクターのエピソードもちゃんとディテールが描かれます。舞台と映画で違いはあったのでしょうか。
岩瀬:映画に出てくるエピソードは舞台の方にも入っていますが、見せ方を変えた部分はあります。例えば、貫地谷さんが演じている美穂役は、舞台ではもっとキャピキャピした感じでしたが、映画では少し影のある役にしました。ただ難しかったのが、映画の公開とほぼ同じ時期に舞台もやるので、同じタイトルでキャラクターの名前も同じなのに、全然違う話になるのはマズい。監督やプロデューサーからは映画的にもっと変更したほうが良いとアドバイスもありましたが、その辺のバランスは苦労しました。
舞台の場合は、自分たちのことを語ったり、セリフで説明することが出来る。例えば私が演じた加奈子も東日本大震災で亡くした恋人がいたりと、舞台では一人一人のエピソードがもう少し語られているのですが、映画では主人公の秀夫に集中させるために、他の人たちのエピソードは観客の想像に委ねている部分もあります。
Q:群像劇としてのバランスが取れていましたが、各キャラクターの登場頻度などは計算されているのでしょうか。
岩瀬:自分が役者ということもあるのかもしれませんが、せっかく長い期間稽古をするのに、セリフが二つしかないような人が出ている舞台は観ていてちょっと辛いなぁと。やっぱりそれぞれの見せ場があって、人となりがちゃんと見えるようなお芝居にしたいといつも考えています。「いらない役が全然なくて、愛情があるね」と皆さんによく言っていただけるので、それはとても嬉しいですね。
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Q:小野武彦さん演じる秀夫の行動が身につまされる中高年男性は多いかと思いますが、キャラクターはどのように作られたのでしょうか?
岩瀬:舞台版の秀夫は山本龍二さんが演じてくださったのですが、ドラマでは強面の刑事役などが多く、見た目がちょっと怖い感じの方なんです(笑)。映画でいうと『恋愛小説家』(97)のジャック・ニコルソンや、『グラン・トリノ』(08)のクリント・イーストウッドのように、凝り固まった自分の価値観だけを優先させているような、そういう取っ付き難い人のイメージで作っていました。小野武彦さんはすごく柔らかい方なので、舞台版のイメ―ジとは違ったのですが、逆に表向きは柔らかそうだけど実は…というところがよく出ていたかなと。
Q:秀夫は普通の優しい人間なのに、悪気なくデリカシーのない発言や差別的な発言をしてしまう。自分自身は悪い人間とは思っていないが、実はいろんな人を傷つけているというのが、すごくリアリティがありました。
岩瀬:まさにそうなんですよね。舞台のときは決まった人物としか接しないこともあり、はっきりしたキャラクターの方が良いのですが、映画となると、主要な登場人物以外とも会話するシーンが出てくる。映画ではそういった普段の表情も描くことができるので、より多角的な人物像になっていたし、小野さんの絶妙な塩梅も良かったと思います。