自ら企画・脚本・出演する劇団「日穏-bion-(びおん)」を2008年に旗揚げし、舞台を中心に活動してきた岩瀬顕子。近年では、リドリー・スコット製作総指揮の『アースクエイクバード』(19)や、ジョニー・デップ主演の『MINAMATA―ミナマタ―』(20)などハリウッド作品にも出演、役者としての活動を海外にまで広げている。そんな彼女が脚本を手掛けた舞台『シェアの法則』(作:岩瀬顕子 / 劇団青年座が上演)がこのたび映画化。岩瀬は、舞台版に引き続き脚本を担当、役者としても出演し、プロデューサーまでも担当している。活動の幅を広げボーダレスに活躍する岩瀬が映画製作に踏み出した理由とは? 製作の経緯から自身のものづくりに対する思いまで、たっぷり話を伺った。
『シェアの法則』のあらすじ
東京の一軒家で暮らす春山夫妻。自宅を改装して始めたシェアハウスには、年齢も職業も国籍もバラバラの個性的な面々がおり、彼らは互いに協力し合い、時には衝突しながらも、共同生活を営んでいる。管理人である妻の喜代子(宮崎美子)は食事会を開いたり相談に乗るなど、住人たちの母親のような存在だったが、ふとした事故をきっかけに入院することとなった。そこで、しばらくの間、夫の秀夫(小野武彦)が妻の代わりを務めることになる。社交的な喜代子とは対照的に、人づきあいが嫌いで誰とも打ち解けようとしない秀夫は、住民からも疎まれ、息子の隆志(浅香航大)に対しても厳しく接している。そんな中、キャバクラで働いている美穂(貫地谷しほり)が勤務先でトラブルを起こし呼び出されることになった。自分の価値観でのみ物事を見てきた男が、様々な境遇の人たちと関わる事によって、少しずつ相手を『思いやる』ことを学んでいく物語。
Index
舞台と映画、資金繰りの違い
Q:『シェアの法則』はもともと舞台ですが、映画化しようと思った理由を教えてください。
岩瀬:2020年に文化庁によるコロナ禍における文化芸術活動を対象とした支援事業があり、舞台を基にした短編映画『月の海』を撮ったんです(岩瀬は製作、脚本、主演)。その作品が国内外の映画祭でいくつか賞をいただくことが出来て、映画製作の手応えを感じていました。
その後しばらくして、私が脚本を書いた青年座の舞台『シェアの法則』の全国上演の話が決まりました。2023年の1年間で50箇所/100ステージ以上で上演され、約7万人のお客さんが観てくれることになる。当初から『シェアの法則』は「映画やドラマになりそうだよね」という声もあり、しかもほぼシェアハウスの中で起こる話なので映画化もしやすい。舞台を観たお客さんだったら、映画も観てくれるんじゃないかなと(笑)。もちろんその逆もあって、映画を観た方が舞台も観てくれたら良いなと思ったんです。
『シェアの法則』©2022 株式会社ジャパンコンシェルジュ
Q:プロデューサーとしてはどのような動きをされていたのでしょうか。
岩瀬:大きかったのは資金集めですね。まずは文化庁のAFF2(Arts for the future! 2)支援事業に採択されて、それから私の作品を気に入って下さっている方がまとまった金額を出してくださることが決まりました。あとはクラウドファンディングのような形で、知り合いや自分がやっている劇団のサポーターの方々、私は栃木出身なので栃木の企業の方々など、普段から応援してくださっている方にお声がけさせていただき、応援してもらいました。そんなに大きな規模でやるつもりはなかったのですが、名前のある役者さんたちが出てくださることにもなったので、結構頑張って集めました。
Q:製作委員会という方式は考えなかったのでしょうか。
岩瀬:映画業界に詳しいわけではないのですが、製作委員会方式だと権利の所在がややこしかったり、利益を求めての出資という形になることが多い。今回は出資というよりも、協賛のような形でやっていただけたので、そこが違うと思います。
Q:映画と舞台では、資金集めの動きは違いますか。
岩瀬:全然違いますね。舞台はチケット販売でトントンになるように資金繰りをするんです。加えて助成金なども申請し、少しプラスになればいいかなという考え。映画と比べるとチケット代も高いので、お客さんが入ればそれでOK。だから「まずお客さんを呼ぼう」ということに集中できるんです。上演すれば劇団のファンの方が来てくださるので、ある程度の集客も見込める。でも映画はその辺が全く読めないですね。製作費も大きいし、作った後も配給や宣伝など色々必要になってくる。結局全体でいくら掛かるのか予想できない部分があります。まぁ大体このぐらいかな?というのはありますが…、なかなか難しいですね(笑)。学んでまた次に生かそうと思っています。