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『PERFECT DAYS』共同脚本/プロデュース:高崎卓馬 “もの作り”は手段じゃない【Director’s Interview Vol.381】

『PERFECT DAYS』共同脚本/プロデュース:高崎卓馬 “もの作り”は手段じゃない【Director’s Interview Vol.381】

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日本が舞台に日本人が日本語で演技をしているのに、そこには確実にヴィム・ヴェンダースの映画がある。日本で撮るからといって、リスペクトする小津安二郎へのオマージュだけに終始しない。潜在的な小津への影響は見られるが、それはこれまでの映画と変わらない。『PERFECT DAYS』は奇跡的とも言えるほどにヴィム・ヴェンダースの映画になっていた。『ベルリン・天使の詩』(87)を観たときと近い感覚を覚えたほどだ。


この奇跡的な映画を作り上げることができたのは、ヴェンダース一人の力ではないだろう。彼が東京で映画を撮ること自体、ヨーロッパで撮るよりも数倍困難なことは想像に難くない。それを実現させた中心人物の一人が、共同脚本/プロデュースを手がけた高崎卓馬氏だ。同氏はいかにしてヴィム・ヴェンダースと一緒に東京で映画を作り上げたのか? 話を伺った。



『PERFECT DAYS』あらすじ

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。


Index


すべては「架空の映画」からはじまった



Q:本作の企画はどのように始まり、ヴィム・ヴェンダース監督はどのタイミングで決まったのでしょうか? 


高崎:柳井康治さん(ファーストリティリング)がTHE TOKYO TOILET*というプロジェクトを企画から実施、そして資金提供までやられていて、その相談が発端でした。公衆トイレの課題をたくさんの建築家やクリエイターたちと具体的に解消していくもので、生まれたトイレそれぞれのコンセプトや考えを伺うと、表面的なことだけではないたくさんの挑戦や考え方があってとても興味をもちました。でも柳井さんはその時すでに次の課題に向き合っていて。それが「メンテナンス」だったんです。どうしたらみんなに伝わって、愛されて、大切にされるかを考えていたんです。そこでふたりでずいぶん長く定期的に会話を重ねました。後でとても大切な宝物になるような雑談もいっぱいしました。そのなかで究極のメンテナンスは汚さないことだとか、アートとデザインの影響の違いについてなど話していて。そのなかでひとつのアイデアとして「架空の映画のサントラ」というものがありました。それは音楽を軸にした比較的キャンペーンのようなものだったのですが。企画そのものに僕が夢中になって、その「架空の映画」のプロットをしっかりつくったんです。実際に作るという重圧のないせいだと思いますが、逆に生命力の強いアイデアがそこにあって。それをみた柳井さんがこれは架空じゃないほうがいいんじゃないか、と言い始めて。僕はいや架空っていうのが企画のミソでとか言ってたんですが、いやいや何か映像にしたほうがいいと返されて。


* THE TOKYO TOILET 東京都渋谷区内17カ所の公共トイレを新しく生まれ変わらせるプロジェクト。世界で活躍する16人のクリエイターがそれぞれのトイレをデザインした。


「架空の映画」を考えているときに、ぼんやりと“東京”のことを考えていました。東京では今でもビルが建ち続けていて、どこか成長しなきゃいけないという強迫観念が空を覆っている。都市の宿命なのかもしれない。でもその空の下にはその速度や重さに疲れてしまった心もたくさんある。前年比っていう言葉の怖さというか。感じる心が繊細なひとほどそうなのかもしれない。本人が自覚していないところでその歪みがいろんな形ででている。そういうものに気づいているものが何かあるだけで救えるというのは言い過ぎかもしれませんが、どこかああ大丈夫かもしれないという感覚ができたりするかもしれない。


山田太一さんのドラマは僕にはそういう存在でした。息苦しさを描いてもらうおかげでそこに希望の種を感じたりする。そういうものをわりと無邪気に考えていました。



『PERFECT DAYS』ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.


いざ、映画、映像をつくろうとなった時に柳井さんから、その中身の前にこの映画の取り組みを記事か何かで誰かが目にしたとき「おお!」と少しでもテンションがあがったりするものがいい、と言われました。「スピルバーグが」とか「タランティーノが」とかだとそうなりますよね?そういうみんながワクワクするものがあるかどうかはとても重要じゃないでしょうか、と。これは本当に大切なポイントだと思いました。僕らは企画が成立するためにどうしても無意識に読めないものを排除しがちで、それだとたしかに既視感がまとわりつく。既視感のあるものは人の心を動かすことはありませんから。構えのスケールの大きさと、物語の繊細さは同居できるものですし。


海外の監督でやる、ということがその時決まりました。それからあらゆる監督を調査して、彼らがどうやって映画をつくるのか、僕らの企画に乗る場合どういうことが起きるか、徹底的にシミュレーションしました。僕にはそういう映画づくり経験もルートもなかったからずっと手探りで。企画をたててどこかの映画会社にプレゼンをして、という常識的な方法からまったく逸脱した方法になってしまったのは、最初に映画をつくるというゴールを設定しなかったからそうできなかったということかもしれません。それが結果的に功を奏したんですが。


たくさんの候補のなかから、ふたりともヴェンダースが大好きだということがわかってもりあがって。ふたりが好きなんだから当たってみようかと。そのときは断られても勲章だし、ハリウッドとは違うスタイルのひとだから可能性はあるんじゃないか、むしろ商業的なものではないという意味で面白がってもらえるんじゃないか、と思っていました。それでふたりでレターをつくりました。


柳井さんはプロジェクト全体のこと、僕はなぜヴェンダースじゃないといけないかということを丁寧に書きました。最初は4つの短編で、フィクションの存在をドキュメントの方法で撮影する。その両方の道を歩いてきたあなたにしかできないというような、いい意味で断りにくい手紙だったと思います。





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