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スタンリー・キューブリック監督作品まとめ 完璧主義者で厭世主義者、20世紀最後の巨匠
スタンリー・キューブリック監督作品 1970〜90年代
8.『時計じかけのオレンジ』(71)137分
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暴力とセックスに明け暮れる健康不良少年アレックス(マルコム・マクダウェル)を通して全体主義を風刺する、ウルトラバイオレンス青春劇。原作者のアンソニー・バージェンスは言語学者でもあったため、トルチョック(殴る)だの、ドルーグ(仲間)だの、デボチカ(女の子)だの、ボルシャイ(男の子)だの、架空の言語“ナッドサット”が全編にわたって使われている。この映画に触発されたアーサー・ブレマーはアラバマ州知事の暗殺計画を企て、そのブレマーの日記に触発されたポール・シュレーダーは『タクシードライバー』(76)の脚本を書き上げた。意外なところで、キューブリックとスコセッシは繋がっているのである。
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9.『バリー・リンドン』(75)185分
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ナポレオンの映画化プロジェクトが中止となったキューブリックが、その代わりにウィリアム・メイクピース・サッカレーの小説に目をつけて映画化した、エキセントリックでキッチュなピカレスク・ロマン。18世紀ヨーロッパを舞台に、成り上がり貴族の栄光と没落の半生が描かれる。NASAのために開発されたという特別なレンズを使うことで、屋外シーンは自然光、屋内シーンは蝋燭の光のみで撮影。レンブラントを思わせるバロック絵画的映像、フェルメールの絵画に出てきそうな豪奢な貴婦人たちは、並々ならぬ映像のこだわりによって生み出されたのだ。
10.『シャイニング』(80)143分
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『バリー・リンドン』の興行的失敗を受けて、確実に人が入る映画を作る必要があったキューブリックは、次回作としてスティーヴン・キングのベストセラー小説をピックアップ。閉鎖されたホテルを舞台に繰り広げられる、モダン・ホラーの傑作を完成させた。シンメトリーな構図に佇む双子の少女、鬼神の如き形相で斧を振り回すジャック・ニコルソンと、とにかく心胆寒からしめるシーンのオンパレード。だが原作を大きく改変したことで、スティーヴン・キングの怒りを買ってしまったことは有名な話。そしてキング自ら脚本を手がけたTVドラマが逆に不評を買ってしまったことも、これまた有名な話。
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11.『フルメタル・ジャケット』(87)116分
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『プラトーン』(86)、『サイゴン』(88)、『カジュアリティーズ』(89)、『7月4日に生まれて』(89)と、ベトナム戦争映画が大量生産された80年代。真打ちとしてキューブリックから届けられた最終兵器的作品。容赦なく罵倒し続ける鬼軍曹の徹底的訓練によって無垢な青年たちが殺人マシーンへと変貌を遂げていくプロセスは、ルドヴィコ療法によって健康不良青年アレックスが真人間に“矯正”される『時計じかけのオレンジ』と同工異曲。ベトナムの女性兵を殺した主人公たちが、ミッキーマウス・クラブマーチを歌いながら行進する不気味なエンディングに、世界の警察を自認するアメリカへの強烈な皮肉がチラリ。
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12.『アイズ ワイド シャット』(99)159分
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ハリウッド最強のセレブ(元)夫婦トム・クルーズ&ニコール・キッドマンを、イギリスに46週間も拘束して撮り上げた、リアル夫婦による擬似夫婦の夫婦クライシス劇。あまりに撮影期間が長かったため、『ミッション:インポッシブル2』(00)の撮影開始が大幅に遅れてしまったとの逸話もアリ。アルトゥル・シュニッツラーの中編小説を元に、夢とうつつの狭間で揺れ動くような、摩訶不思議な体験が描かれる。試写の5日後にキューブリックは急死。結果的にニコール・キッドマンがラストシーンでカマすFワードが、映画におけるキューブリックの遺言となった。
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。