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『時計じかけのオレンジ』製作から50年超。キューブリックが遺したバイオレンスの愉悦に浸る
2021.10.25
『時計じかけのオレンジ』あらすじ
近未来のロンドンで、不良グループの首領アレックスは、仲間たちと共に暴力とセックスに明け暮れる日々を送っていた。そんな中、仲間の裏切りによって彼はある殺人事件をきっかけに逮捕されてしまい、残忍な人格を矯正するという名目の奇妙な治療法「ルドヴィコ療法」の被験者となる……。
Index
4K化されたキューブリックの近未来ポストノワール
スタンリー・キューブリックの偉大なるマスターピース『時計じかけのオレンジ』(71)が4K UHD Blu-rayでリリースされた。ソフト化にあたっては彼のアシスタントを長年務めてきたレオン・ヴィタリ(彼の人となりはドキュメンタリー『キューブリックに魅せられた男』(17)に詳しい)が監修。35mmカメラのオリジナルネガを新たに修復・リマスターし、キューブリックが推奨する1.66:1のアスペクト比が維持され、故人の感性を尊重したレストアがなされている。
本作はそのほとんどをロケで撮影し、そのため自然光のもとで撮影できるよう、キューブリックと撮影監督のジョン・オルコットは新しい高感度レンズ(f0.95)を採用。加えて現場の実用照明をフォトフラッド電球に替え、それをライティングの補助として使用した。こうした痕跡が、ディテール表現の豊かになった4K版で実感できる。
本作の特徴は、手持ちや360度の旋回カメラワークによるラフな映像スタイルだが、それは実用照明をライティングに使ったことで、スタジオ照明を必要とせず機動的なカメラワークを得たのである。こうしたバックステージも、高解像度によって鮮明となった画からはうかがえるのだ。
『時計じかけのオレンジ』予告
またサウンドに関しても、本作はドルビーAタイプのノイズリダクションを採用した最初の作品である(本作は同録中心で、セリフなどをより聞き取りやすくするためだった)。ミキシングプロセス中のノイズの蓄積を防ぐために、全てのプレミックスとマスターレコーディングでそれは使用され、映画音響史においても重要な位置付けにある(リリース形態はドルビーでエンコードされていない標準のアカデミーモノラル・サウンドトラック)。5.1chステレオにリミックスされたこの最新版からでも、そのこだわりは充分に確認することができるだろう(4K UHD Blu-rayにはオリジナルのモノラルトラックも収録されている)。
ちなみにキューブリック作品は本作を起点に『バリー・リンドン』(75)『シャイニング』(80)そして『フルメタル・ジャケット』(87)とモノラルでリリースされ、監督がステレオ音声に対して懐疑的だという説を生んだ。しかしこれはポストプロダクションに時間をかけすぎ、ステレオミックスをパスしたことによるもので、監督自身は肯定的な姿勢だったという(現に『バリー・リンドン』はドルビー社の技術的な支援のもとドルビーステレオで録音された)。なので光学メディアでのリリースにおける5.1chステレオ化を、禁欲的に否定することはないと個人的には思う次第だ。