家の間取りを起こして脚本を書く
Q:脚本化は具体的にどんな作業から始めましたか。
吉田:最初にやったのは、家の間取りを起こすことでした。読んでいるだけでは家全体のイメージが上手くつかめなかったので、美術デザインの富田麻友美さんに図面を起こしてもらったんです。彼女が起こしてくれた3Dも含めた何枚かの図面を前にして、主人公の家とその近所が立ち上がってくると、ここで物語が動き始めることが簡単に想像できました。その図面を見ながら脚本を書いたからか、初稿はすごく早かったですね。もちろん、その図面と実際の撮影場所はまた変わってきます。そこは最初から覚悟した上でした。
内容は原作からはあまり大きくは変えておらず、バランスを見ながら自分の中で好きなところ・映画にしたいところを取捨選択していきました。自然に今のかたちに落ち着いた感じですね。
『敵』ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA
Q:原作からの換骨奪胎も感じましたが、原作とのバランスはどのように取られたのでしょうか。
吉田:小説とは違う動きも出てきますが、今回はそれほど換骨奪胎した自覚はなく、自分が関わってきた映画の中でも一番原作に忠実。良い意味で、原作を読んだ人を驚かせない映画化になったと思っています。
脚色する際は自分の読後感を頼りにとりあえず最後まで書くことが多いのですが、もし30代のときの読後感で書いていたら、かなり形が変わったと思います。筒井さんがこの小説を書いたのが65歳ぐらいのときで、僕自身も60歳近くになってからこれを脚色した。そういう意味では割と近い感覚で70歳過ぎの老人の生活をイメージできたので、ギャップが少なかったのかなと。