自分が観たい映画を作る
Q:モノクロで老人が主人公という映画は、現在の日本映画界ではハードルが高いと思いますが、制作の際に観客や興行のことは意識されましたか。
吉田:観る人のことは意識していません。いつも自分が観たいものを作っているだけで、それがズレたらヤバいのかなと。自分が観たいものと同じものを観たい人はある程度いるはず、という根拠のない確信がある。
この映画の脚本を読んだあるスタッフに言われたんです。「こんな映画誰が観たいと思うんですか?」と。今の映画の企画は、大体が「こういう映画を観たい人が多いのではないか」というところから始まる。そんな中で「こんな映画誰が観たいのかわからない、だからこそ参加しようと思いました」と言ってもらえて、ちょっと嬉しかったですね。「こういう人が観てくれるだろう」と、作る前からある程度計算が立つ映画ではない映画の良さといいますか、そういうものを感じてくれる俳優だったり、スタッフだったり、そして観客に出会うというのが、この映画のテーマなのかなと。今はそう思います。
俳優の1人にも言われたんです「この映画は誰の企画なんですか?」と。「僕がやりたいと思いました」と答えると、「そうだと思いました。だからやりたいと思います」と言ってくれた。そういう味方が少しずつ増えていって、いつもだと感じられない縁みたいなものを感じましたね。
『敵』ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA
でも、観客が観たいものから発想する監督は、あまりいないのではないでしょうか。基本はまず、自分が観たいものから作り始めるのではないか。そしてどこかのタイミングで、自分だけではなく色んな人に観てもらえるように調整をしていくという作業の連続なのかなと。ただ今回は、観てもらうことを意識する時期が結構遅かったかもしれません。
Q:好きな監督や映画を教えてください。
吉田:新作が出たら必ず映画館に行きたいと思う監督はホン・サンスですね。この前の新作『WALK UP』(22)は、『敵』と全然雰囲気は違いますが、同じモノクロでしたし、儀助のちょっとカッコつけようとしている情けない感じなど、影響を受けているかもしれません。
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監督/脚本:吉田大八
1963年生まれ、鹿児島県出身。大学卒業後はCMディレクターとして活動。数本の短編を経て、2007年、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画デビュー。第60回カンヌ国際映画祭批評家週間部門に招待された。『桐島、部活やめるってよ』(12)で第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞受賞。『紙の月』(14)は第27回東京国際映画祭観客賞、最優秀女優賞受賞。『羊の木』(18)で第22回釜山国際映画祭キム・ジソク賞受賞。その他の作品に、『クヒオ大佐』(09)、『パーマネント野ばら』(10)、『美しい星』(17)、『騙し絵の牙』(21)がある。舞台に「ぬるい毒」(13/脚本・演出)、「クヒオ大佐の妻」(17/作・演出)、ドラマに「離婚なふたり」(19)など。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『敵』
1月17日(金)テアトル新宿ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ
ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA