自然に出てきたキャラクターたち
Q:キャラクターやセリフも画を描きながら出てきたのでしょうか。
鈴木:その通りですね。その場面を描いていたらキャラクターが初めて出てくる。僕もそこで初めましてという状況でした。まずは顔を描いてからキャラクターを考えていて、出てきたものをそのまま生かしました。キャラクターをコントロールすることはせずに、なるべく湧き出て来たものに従おうと。ちょうどポケモンの草むらみたいに、そこからポンポンとキャラクターが出てくる感じでした。
本当にその場その場で描いていったので、服装とかも全く考えていませんでした。キャラクターデザインをしていないので、設定資料やメモの類も存在しないんです。
Q:セリフはどのように書かれたのでしょうか。
鈴木:これもメチャクチャだったのですが(苦笑)、ここでこういう会話をするというメモだけを取っておいて、具体的には書き起こさずに口のパクパクアニメだけを作っていました。後で考えようと作業を進めていたら、いつの間にかキャスティングのタイミングとなって、「あ、セリフ必要だわ」と慌てて考え始めました(笑)。オファーのときはセリフを字幕で入れた映像と企画書をお送りして、打診させていただきました。
『無名の人生』© 鈴木竜也
Q:オファーの時点では画は全部出来ていたのでしょうか。
鈴木:その後、多少カットを足したりテンポを調整したりはしましたが、ほぼ出来ていました。多分、没カットは一つも無かったと思います。
Q:真正面の構図、モノクロベースの色彩、画角の転換など、これまで使ったモチーフを踏襲していますが、こだわりはありますか。
鈴木:一言で言うと「俺は演出してるぞ!」というアピールをしたい(笑)。最近そういうのを感じる映画が少なくなってきている気がしていて、「綺麗なカメラで撮っているだけじゃん」みたいなものよりは、構図を考え尽くして作品にグルーヴをもたらしたい。「これは劇場で流すぞ!」という気持ちもあったので、お客さんのことを考えて作っていきたかった。お客さんが飽きないように、いろんなコーナーがある映画にしたい。それでいろんな工夫をしていきました。