働いていたオイスターバーがコロナ禍で休業となり独学でアニメ制作を開始、そこで作った短編作品『MAHOROBA』(21)と『無法の愛』(22)で国内映画祭を総なめにした鈴木竜也監督。その彼が、たった一人で、1年半で描き上げたのが、自身の長編デビュー作となる『無名の人生』だ。
短編2作で描かれたシニカルでマッドな世界観はそのままに、今の日本が抱えるリアルな闇を忖度なく描き出す。その独特の筆致で生み出された本作は、まるで現代日本の神話のよう。鈴木監督はいかにして本作を作り上げたのか。話を伺った。
『無名の人生』あらすじ
仙台の団地でひっそりと暮らすいじめられっ子の彼は、ある転校生と出会い、かつての父親の背中を追ってアイドルを夢見るようになる。そこから図らずも成り上がっていく彼の美しくも悲哀に満ちた人生が、高齢ドライバーや芸能界の闇、若年層の不詳の死、戦争など、数々の問題を背景に描かれていく。
Index
- 落書きから始まったアニメ制作
- 革命をもたらしたApple Pencil
- 脚本を書かずに制作を開始
- 自然に出てきたキャラクターたち
- リアルタイムで反映した社会問題
- デスゲームの主催者気分だったアフレコ作業
落書きから始まったアニメ制作
Q:これまでは短編を制作されてきましたが、今回長編に挑戦した理由を教えてください。
鈴木:2本の短編で映画祭に参加したり各地を回らせていただいたりして、手応えを感じていました。今このタイミングでクラウドファンディングをやれば、お金が集まるのではないか。3段跳びに例えると、ホップステップときてジャンプするとき。映画といえばやっぱり長編ですし、ここは一丁、仕事も辞めてやりたいことだけやる期間にしようと。
Q:短編を作るまではアニメの画を描いたことがなかったとか。
鈴木:そうですね。これまで描いていたのは教科書の落書き程度、『MAHOROBA』のファーストカットで初めてちゃんと描きました。
『無名の人生』© 鈴木竜也
Q:芸術系の学校を卒業されていますが、特に画の勉強もしていなかったのでしょうか。
鈴木:映像学科で実写を専攻していたので、特に画は描いていませんでした。ざっくばらんな学校で、監督コースや俳優コースがあるわけではなく、アニメをやってもいいし、CGをやってもいいし、もちろん実写映画を作ってもいい。僕が入ったときはほとんどの人がアニメを専攻していて、「時代だなぁ」と思っていましたが、そもそも映画が好きで入ったので「俺は実写をやってやるぜ」と(笑)。少ない人数でやることにカッコ良さみたいなものを感じていました。
アニメに関しても、ジブリなど劇場アニメは観ていましたが、テレビシリーズで観ていたのは、「クレヨンしんちゃん」と「ドラゴンボール」ぐらいでしたね。