デスゲームの主催者気分だったアフレコ作業
Q:どの作品も登場人物も皆、感情の振れ幅が少なく覇気がない印象がありますが、役者さんにはどのように演出されているのでしょうか。
鈴木:覇気が無いというのは、僕の描くキャラクターに表情がないというところに由来するのでしょうね。役者さんに「トーンを落としてください」と伝えたことはなく、皆さん画を見て自然とああいった話し方になったみたいです。今回は声優経験の無い方が多かったのですが、最初にテストしてチューニングした後は、皆さんリテイクなしでほぼ1発OKでした。
アフレコは本当に楽しくて、デッカイ黒い椅子に座って、収録ブースにいる役者さんにマイクを通じて指示を出していると、何だかデスゲームの主催者になったような感じでした(笑)。かなり緊張していたのですが、意外とスルスルやれたなと。スタジオの環境のおかげですね。
Q:アナウンサーのさくら役が素晴らしかったのです。エンドロールで大橋未歩さんだとわかって驚きました。
鈴木:ありがとうございます!大橋さんを褒めていただけるのはすごく嬉しいですね。昔から「やりすぎコージー」など拝見していたのですが、女性アナウンサーの中でも特別な方だなという印象がありました。ニューヨークに移住されていたり、脳梗塞で生死をさまよった経験があったり、何だかカッコイイなと。もしかしたらこういう作品にも興味を持っていただけるような、そういう心がある人なのではと思い、打診させていただきました。そうしたら、まさかのアメリカから来てくださったという(笑)。「なるべく他に用事を作って来日してください」と言ったんですけどね(笑)。
『無名の人生』© 鈴木竜也
アナウンサーって特殊技能なんだなと、録っていて思いましたし、さくらは一番感情の変化があるキャラクターにもかかわらず、よくやっていただけたと思います。2人で一緒にこのキャラクターを作っていった感じもあって、すごく楽しかったですね。
Q:ウェス・アンダーソン、マーティン・スコセッシ、北野武、スタンリー・キューブリック、クエンティン・タランティーノ、ポール・トーマス・アンダーソンなど、古今東西ありとあらゆる映画オマージュが登場します。そのこだわりについて教えてください。
鈴木:『MAHOROBA』は『キャスト・アウェイ』(00)、『無法の愛』は『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(94)など、それぞれ柱となる参考作品があったのですが、今回はなるべくオリジナルにして、迷ったときにだけ好きな映画に助けてもらおうと思っていました。だから、「このパターンだとあの映画をサンプリングできるな」という感じで、ちょくちょく出しています。何だか、将棋みたいに何手先に何がいる(この映画がある)といった感覚もありました。でもこの映画が似ていると言われている、『2001年宇宙の旅』(68)や手塚治虫の「火の鳥」は未見なんです。
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監督/原案/作画監督/美術監督/撮影監督/色彩設計/キャラクターデザイン/音楽/編集:鈴木竜也
1994年12月3日生まれ。宮城県・仙台市出身。東北芸術工科大学映像学科を卒業後、実写監督を志すも流れ流れて歌舞伎町のオイスターバーの雇われ店長に。コロナ禍を機に独学で作り始めた短編アニメが、国内の自主映画祭で数多の受賞。2022年には『鈴木竜也短篇集三人の男』が劇場公開。令和5年度宮城県芸術選奨メディア芸術部門新人賞受賞。今作は、クラウドファンディングで製作費を集め、仙台の実家にこもり、1年半をかけて全て1人で描き上げた。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『無名の人生』
5月16日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:ロックンロール・マウンテン
© 鈴木竜也