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『遠い人』玉田真也監督 1テイク目の演技が良い理由【Director’s Interview Vol.531】

『遠い人』玉田真也監督 1テイク目の演技が良い理由【Director’s Interview Vol.531】

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1テイク目が一番良い説



Q:登場人物たちのやり取りは、私たちの普段の生活と変わらない些細なことが積み重ねられていきます。その積み重ねが物語を少しずつ動かしているような印象がありましたが、演出する際に気を付けていることはありますか。


玉田:その辺は課題ですね。いつも難しいと思っています。細かく演出して、間のことや声の大きさなど、いろいろ言っていくのですが、やりすぎたと思うときがたまにあります。例えば4テイク撮ったとして4テイク目がOKだとすると、その時は「これが一番よかった!」と思うのですが、編集に入ったときにOKテイクを見たら、芝居させすぎていて、芝居が強くなってしまっている。それで1テイク目を見直すと、すごくいい感じで力が抜けていて、そっちの方が良かったりする。極端に言うと、1テイク目どころかテストテイクの方が良い場合もある。でもテストの時は、美術がまだスタンバイ中でコップにサランラップが掛かっているとか(笑)。テストでやる芝居は肩の力が抜けていて自然体なんですね。そういうことは毎回あります。そこは課題ですね。


Q:そのテストテイクをどうしても使いたかった場合は、何か方法はあるのでしょうか。


玉田:例えば、サランラップをCGで外すという方法があるかもしれません。でもそれは予算の話になってくるから、プロデューサーに聞かなきゃいけない。これはもう編集というよりもCG 案件になってくる(笑)。まぁ無理だったら仕方ないですね。そういうことは多いですよ。街中で撮影していると、芝居は良かったのにおじさんが入ってきちゃったとかね。しかも歩きながらスマホでこっちの写真を撮ってるとか。写ったとしても、止まっていれば消しやすいんですけどね(笑)。



NORMEL TIMES ショートフィルム『遠い人』


Q:『夏の砂の上』(25)でご一緒されたオダギリジョーさんも、1テイク目が一番芝居が良いと仰っていました。その説は結構正しいのでしょうか。


玉田:正しい部分はありますね。オダギリさんは自分が監督をするときは、確かテストもしないそうです。多分それは、俳優としての自分の感覚を信じているんだと思います。テストの時って、ある意味適当にやるじゃないですか。あまり気迫を込めずにやったりすることが多い。そのぐらいがちょうどいいときがあるんです。演劇のときは稽古を重ねて、それを積み上げていくという考え方ですが、映画の場合は現場で積み上げていかなくても良いのかもしれない。『夏の砂の上』でオダギリさんとご一緒して、そのことをすごく思いました。「あれ?一回目の方がいいじゃないか」「僕が何も言わなかったときの方がいいじゃないか」とかね。最初は僕が細かくああしてこうしてと演出していたのですが、「これ、言わない方が良い説あるぞ」と思って途中からあまり言わなくなったんです。言わなくなったことで間伸びしちゃって「大丈夫かな?」とか思っていたのですが、編集で見てみると気にならなかった。芝居もこれぐらいが良いのだなと。


現場での俳優の体の状態と言うんですかね。演技をコントロールすると硬くなって、空気も硬くなるような感じがする。でも、監督なのに全くコントロールしなくて良いのか。それって要は映画におけるコントロールがどうやってなされるのかという気がしていて。「ここでああしてください、こうしてください」と外面を固めていくようにコントロールするのか、そうではなく環境を作ることによってコントロールするのか。例えば、リハーサルでは俳優をスタッフたちが囲んでいるのですが、その中でいきなり芝居することはどうしたって緊張するもの。「じゃあカメラマンと助監督一人以外、全員出て」と言って、少人数の中でじっくりリハーサルすると、俳優の緊張が解けるかもしれないし、良いアイデアも生まれてくるかもしれない。カメラ前での演技が緊張するのであれば、カメラの存在感をなくすように遠くから撮るとか。そうやって、俳優がカメラの前に立つまでに彼らとどんな関係を作るかということも演出なんだろうなと。欲しいものは一緒だとしても、そこに至るまでの道筋のつけ方は違う。映画と演劇って環境が違う分、やり方も全然違う気がします。


Q:監督ってカメラ前だけを考えているものかと思っていました。


玉田:もちろん撮影しているときは芝居だけ見ています。「用意、ハイ!」の後から「カット!」までの間は芝居だけをじっと見ているし、そうあるべき。俳優にとって一番嫌なのは、監督が芝居を見ていないことでしょうから。




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