※本記事は物語の結末に触れているため、映画未見の方はご注意ください。
貧困から抜け出そうと街を駆け回る少女。命懸けでビザ取得に奔走する移民の“姉弟“。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『ロゼッタ』(99)から、フランスのマリオン・コティヤールを主演にした『サンドラの週末』(14)、前作『トリとロキタ』(22)まで、ダルデンヌ兄弟の映画は、時代の変化を反映しながらも常に社会の周縁に生きる人々を画面の中心に据え、彼らの苦しみを見つめてきた。
手持ちカメラを多用し、疾走する人々を間近な距離から追いかけていく彼らの撮影スタイルは、社会の歪みをリアルに浮かび上がらせる。一方で、緻密に練り上げられた物語構成は、主人公たちの日常をサスペンスへと高め、観客は、いったい彼らはこの先どうなってしまうのかと息を呑んでスクリーンを見つめることになる。
ダルデンヌ兄弟の最新作『そして彼女たちは』が描くのは、若くして母親となった5人の少女たち。貧困や虐待、依存症など、さまざまな問題を抱える彼女たちは、母親として、そしてひとりの人間として、この環境から立ち直ろうとしている。彼女たちの日々を、ダルデンヌ兄弟はどのように映画の中に描いたのか。来日したおふたりに、映画の制作経緯や、撮影までの準備について、お話をうかがった。
『そして彼女たちは』あらすじ
ベルギーの母子支援施設で暮らす5人の若き母親たち。彼女たちは、施設の職員を借りながら共同生活を送り、自立するための手段を見つけようとしている。恋人との関係に不安を抱えていたり、依存症から立ち直ろうと努力していたりと、抱える問題は様々だ。生みの親に会いたいと願う者や、貧困から抜け出すため産んだ子を養子に出すことを考える者もいる。ときに困難に直面しながらも、5人はそれぞれに前へと進んでいく。
Index
ずっと助け合いの関係を描いてきた
Q:新作『そして彼女たちは』で驚いたのは、5人の女性たちが互いを助け合いながら暮らす様子が映されていることでした。これまでのあなた方の映画の主人公はみな、孤独で、他者を拒絶するように生きていたように思うのですが、おふたりにとっても、新しい試みをしているという意識はあったのでしょうか。
リュック:これまでの映画の主人公が大抵1人か2人だったことを考えれば、たしかにこれは新しい試みだといえるでしょう。今回は同じ施設で暮らす5人の若い母親たちを主人公にしていますが、そこには彼女たちが産んだ赤ん坊や、子供の世話の仕方を教えてくれる教育係もいる。この映画では、こうした大勢の人々の関わりを、人々の体の動きとともに描いています。
実をいうと、最初のシナリオでは、いつものようにひとりの少女を主人公に据える予定でした。でもその取材のためにベルギーにある母子支援施設を訪ねたところ、私たちはこの施設にすっかり魅了されてしまった。何か幸福感のようなものをその場所に感じたのです。もちろんそこにいる少女たちはみな幸せとはいえず、さまざまな問題を抱えています。でも彼女たちはみな、自分の抱える問題を解決しようと懸命に戦い、この逆境から抜け出そうとしていました。そうした彼女たちの姿や生活を見て、私たちはこの映画を撮ろうと決めたのです。

『そして彼女たちは』ⓒLes Films du Fleuve - Archipel 35 - The Reunion - France 2 Cinéma - Be Tv & Orange - Proximus - RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus
とはいえ、互いを助け合う人々の関係を描くのは初めてではありません。これまでの映画ではたしかに孤独な人々を描いてきましたが、彼らはみなその孤独から抜け出そうとしている人でした。『ロゼッタ』の場合、ロゼッタは最後にリケという男の子と出会い、彼の差し伸べた手を受け入れる。『サンドラの週末』では、苦境に陥ったサンドラとその夫が、助けを求めて同僚たちに会いにいきます。どんな苦しい状況にあっても、誰かと出会うことによって人は救われる。私たちは、これまでもそういう助け合いの関係を描いてきたつもりです。