原作から離れた垣原のイメージ
Q:キャスティングはどのタイミングで行われたのでしょうか。
佐藤:脚本執筆とほぼ同時進行でした。宮崎さんからも相談があったので、ジジイ役には水谷豊さんが良いのではないかと提案したりしていました(笑)。当時はまだ「相棒」の放映前で、水谷さんが2時間ドラマに出演され始めた頃。あんなに面白い人なのに2時間ドラマにしか出ないのはもったいない。実際に打診してくれたようですが、実現しませんでしたね。
イチの役が浅野さんだと思っていたのですが、ご存知の通り実際には垣原役でした。「この映画の主役は垣原だ!」と宮崎さんが言い出したんです。当時浅野さんは朴訥としたイメージでしたが、脚本上の垣原はそんなキャラクターではありませんでした。だからラッシュを見た時に「こんな芝居なんだ!」と驚きつつ、当初のイメージとは違ったもののめちゃくちゃ面白かった。三池監督も浅野さんのあの芝居に対しては特に注文をつけず、「このままいくのが面白そうだから」とそのままにしておいたそうです。
Q:垣原のセリフはどれもアドリブのように聞こえますが、そこも脚本通りなのでしょうか。
佐藤:ほぼ脚本通りです。アドリブでつっかえているように見える部分も、セリフ通りでしたね。
Q:北村道子さんの衣装も素晴らしいですが、人物造形について脚本ではどこまで描かれていたのでしょうか。
佐藤:漫画があったので、ト書きで詳細に指定することはほとんどありませんでしたが、北村さんの功績はすごく大きいですね。北村さんはいつも原作を読まないらしく、脚本だけでイメージを作っていく。垣原の金髪で色が白いビジュアルも原作にはなく、北村さんが脚本を読んで「垣原はアルビノだ」と解釈した結果です。もちろん脚本にもそんな設定は書いていないのですが、浅野さんには「色を抜いてきてよ」と指示したそうです。

『殺し屋1 4K』©山本英夫/小学館「殺し屋1」製作委員会2001
Q:北村さんとは事前に打合せされましたか。
佐藤:全くしていません。おそらく誰もしていないと思います。宮崎さんも「イチのスーツだけはこちらで作らせてほしい。あとは自由に」と任せていました。衣装合わせの日に行ったら、用意されているものが想像を超えていて、皆の衣装が宇宙服のように見えて唖然としました。
Q:脚本や衣装など、監督の指示があまりなかったことが意外です。三池監督は与えられた材料でも自分の世界をちゃんと作り上げることができるのですね。
佐藤:多分そうでしょうね。Vシネマなどでは自身が先頭に立って引っ張る必要があるのでしょうが、宮崎さんがこれほど面白い美術や衣装のスタッフを集めてきたなら、自分が口を出すより彼らに好きに暴れてもらった方が良いという意図だったのだと思います。原作に対してのリスペクトが皆すごかったので、そこも大きかったと思います。
Q:イチ役の大森南朋さんも衝撃でした。あんな大森さんは初めて見ました。
佐藤:当時、大森さんはまだ無名に近かったのですが、宮崎さんが制作した「つげ義春ワールド」(98 テレ東)というドラマで、「義男の青春」の義男役をやられていました。そんなこともあって、イチ役がなかなか決まらない中、宮崎さんが「誰も決まらなければ大森南朋で行く」と決めていたみたいです。
大森さんの撮影初日が私の出演シーンだったのですが、私が大森さんを蹴るところから撮影が始まりました。三池監督から「南朋君は若いしプロテクターも入れているから多少無茶しても大丈夫」と言われ、監督自ら「ちょっと見てて」とすごい迫力で蹴り出したんです。それを見て私も思いっきり蹴ったのですが、どうやらプロテクターが入っていないところを蹴っていたらしく、後で大森さんに怒られました(笑)。