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コミックから飛び出した狂気!実写化されたジョーカーたち【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.30】

コミックから飛び出した狂気!実写化されたジョーカーたち【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.30】

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新しいジョーカーを打ち出したヒース・レジャー版とその後……





 11年前の夏、高校二年生のぼくは『ダークナイト』を観て、その時点ではすでに故人となっていたヒース・レジャー扮する全く新しいジョーカーに、当然夢中だった。9月の終わりにはのちにマーベル・シネマティック・ユニバースの原点とされる『アイアンマン』が公開されるわけだが(日本では第二作にあたる『インクレディブル・ハルク』のほうが先の公開だった)、まだまだマーベルの見知らぬヒーローなど、ただでさえ視野の狭いティーンエイジャーの目には入っていなかった。今では大好きなMCUの、始動の瞬間を無視していたわけだが、当時の自分を責める気にはなれない。あれくらいの年齢で『ダークナイト』のような映画、あんなジョーカーを見せられてしまったら、そりゃあ仕方のないことだし、それに夢中だったあの夏を否定したくはない。


 ジャック・ニコルソン版とは異なり、ヒース・レジャー版のジョーカーはその正体が最後まで謎のままだ。口の両端を頰まで裂かれた跡がある以外は、皮膚の漂白というような特殊な特徴はなく、汚い雑な化粧に、紫のジャケット、緑色のベスト、紫のパンツに薄汚れた靴といった、普通の衣類に身を包んでいる。口の傷がどうして出来たのかという話をことあるごとにするが、そのたびに内容は変わり、キャラクターのオリジンが話によってころころ変わるという作品上の性質を体現するかのようだ。どこからやってきた何者なのかがわからないので、ニコルソン版のように闇の騎士との直接の関係はないのだが、それでもコウモリの格好で自警活動をする「怪人」に触発されて現れたのは確かであり、バットマンは自分の戦いがもたらした新しい悪から街を守るために動き出す。なんの因縁もなく、ただひたすら暴力的な衝動に突き動かされて文明の秩序に挑戦するジョーカーには、元マフィアのニコルソン版とは違うベクトルの狂気がある。少なくともこちらのジョーカーは美術館を襲撃した際に、フランシス・ベーコンの絵画にも容赦はしないだろう。


 怪演もさることながら、ぼくはその衣装が好きだった。初めてこのバージョンのヴィジュアルを見たのは、ちょうど彼がゴッサム市警に捕まっているシーンの画像で、上着を脱いだシャツにベスト姿で座っているものだった。特に印象的だったのはパンツの裾から覗くカラフルな靴下で、これがとても素敵だと思ったのを覚えている。なんとなく真似できそうな服装であることも、魅力的に見えた。これはキリアン・マーフィが演じるスケアクロウもそうなのだが、極力現実的にアレンジされた怪人の良さだと思う。ダニー・デヴィートのペンギンよりはコスプレしやすいはずだ。


 その後、ジョーカーの情婦ハーレイ・クインを中心にヴィランによるチームを描いた『スーサイド・スクワッド』に、新しいジョーカーが登場した。ジャレッド・レトのジョーカーは全身にたくさんのタトゥーを入れ、ピカピカのゴールドアクセサリーをつけてスーパーカーを転がすという、ギャングスターのスタイルで表現された。あまり品がよろしくないジョーカーなのだが、危なさや獰猛さは感じられる。ジャレッド・レトは『アメリカン・サイコ』にて、ノーラン三部作でバットマン/ブルース・ウェインを演じるクリスチャン・ベイルと共演しており、実はベイルに惨殺されてしまうのだが、間接的にバットマンとジョーカーが揃っているだけでなく、のちのバットマン役がサイコパスで、のちのジョーカー役がサイコパスに殺される側というのがちょっと可笑しい。


 演じる俳優の数だけ違う姿を見せるジョーカー。コミックのキャラクターはまさに伝説上の人物のように様々なスタイルで描かれ、何人もの俳優が演じるもの。ホアキン・フェニックスによる最新版も含め、これからもいろいろなジョーカーが現れることだろう。そうしてこのキャラクターはコミックや実写映画にだけおさまるサイズではない。俳優の数だけバージョンがあるように、そのほかのメディアにおいてもそれぞれ違う姿を見せてくれる。というわけでこれまでのジョーカーを振り返る旅は次回に続く……。




イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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