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コミックから飛び出した狂気!実写化されたジョーカーたち【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.30】

コミックから飛び出した狂気!実写化されたジョーカーたち【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.30】

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邪悪さとコミカルさを両立させたジャック・ニコルソン版





 ジャック・ニコルソンによるジョーカーは、子どもの頃から観ているということもあり、ある意味どのバージョンのジョーカーよりも印象的で、ジョーカーというとやはり造形的にはこちらが一番先に思い浮かぶ(もちろん今だから言えることであり、時期によってはそうではなかったのだけれど)。ティム・バートンによる『バットマン』は、その後のバットマン映画のみならず、コミックの実写化作品の路線にも大きな影響を与えたと言えるが、もちろんニコルソンのジョーカーも大きな役割を果たしている。


 原作に準じた定番の服装と色彩を維持し、かつてのシーザー・ロメロ版のような古風さや愉快さを残しながらも、凶悪さと暗さを兼ね備えてクライム・アクションの中にすっかり溶け込んでいる。実際的なイメージで言えばのちのヒース・レジャー版や今度のフェニックス版のほうが「いそう」な見た目だが、原典イメージを正面からしっかり実写化したニコルソン版があってこそ、のちの映像で様々なアレンジができるというものだろう。笑気ガスや硫酸の飛び出すコサージュといったジョーカーお得意の武器もしっかり登場する。


 作中におけるジョーカー誕生の経緯は、コミック作品ごとにいくつものパターンがあるが、ジョーカー自身が本当のことを言っているかどうかわからないという性質のため、全ての説を可能性のひとつとして肯定することができる(もちろん全てが嘘であるとも言えるのだが)。比較的定番の説として描かれるのは、とある悪党がバットマンに追われているうちに化学薬品の液体の中に落ち、皮膚が漂白されて顔面が笑顔のようにひきつってしまう、というようなバックグラウンドだ。


 アラン・ムーアによるジョーカー誕生秘話の代表作コミック「キリング・ジョーク」ではこの説が採用され、バートンの映画版もこれに影響を受けている。映画ではマフィア同士の対立と策略という要素が加わり、ジョーカーの前身となるのはジャック・ネイピアというマフィアの重鎮である。ボスに嵌められて化学工場で警察やバットマンに追い詰められたジャックは、銃撃戦の末に薬品でいっぱいのタンクの中に落っこちてしまう(一体何の薬品なのか)。どうにか生き延びたジャックは闇医者の怪しげな病室で手術を受け(一体どんな手術なのか)、変わり果てた姿で復活してバットマンの前に立ちはだかるのである。


 なんと言ってもバットマンとジョーカーのコントラスト。バットマンがマスクやケープ、ボディスーツの区別なく全身を真っ黒にされたことで、ケバケバしい色彩のジョーカーとの対比がより際立ち、宿敵同士の典型的なツーショットをビシッと決めている。さらにここでは独自設定としてふたりに因縁を与えてもいるのだが、このことが作品を特別なものにしていると思う。ジャック・ネイピア時代から、殺す相手に必ず「月夜に悪魔と踊ったことは?」と尋ねる習慣がジョーカーにはあるのだが、襲撃された際にこの言葉を聞かされたブルース・ウェインはジョーカーの正体を見破る。かつて裏通りで両親を殺された際、強盗はブルースにも銃口を向けるが、そこで同じ台詞を言ったのである。若き日のジャック・ネイピアこそ、ブルースの両親を殺害した張本人だったのだ。ふたりの怪人が一本の線で繋がる。ジャック・ネイピアがブルース・ウェインをバットマンにし、バットマンがジャック・ネイピアをジョーカーにしたという宿命の環は、この作品のコア的な部分でもある。



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