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拡張するジョーカーの世界【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.31】

拡張するジョーカーの世界【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.31】

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かわいいデフォルメの中にオリジンが宿るレゴ版





 『レゴバットマン ザ・ムービー』は、かの『レゴ・ムービー』の派生作品。レゴ・ブロックで出来たゴッサム・シティを舞台に、バットマンとジョーカーの戦いを描くとても愉快なアニメーション作品である。キャラクターたちが全員記号的なレゴ人形、ミニフィグとなっているのも楽しいが、レゴ版のバットマン映画という特異な位置から、ひとつのバットマン評のように見ることもできる興味深い映画だ。記号的で単純な造形のミニフィグに押し込められたことでキャラクターたちの性格もデフォルメされ、わかりやすく際立ってくる。たとえば、バットマンは自分が大好きで孤独に酔ってさえいるが実は寂しがり屋、ジョーカーはバットマンに宿敵として認めてもらいたくてしょうがないといった具合。しかし、バットマンは道化のことなど悪党のひとりとしか思っておらず、自分のライバルはスーパーマンだと考えている。これを知ったジョーカーはショックのあまり目をうるうるさせながらも頭に来てしまうのだが、繰り返し描かれてきた二人の切っても切れない関係や性格の温度差みたいなものを実に可愛く、シンプルに描いていると思う。


 このレゴ版ジョーカーはデザインも気に入っている。それまで映画版やコミックでの姿をモチーフにしたジョーカーのミニフィグは実際に商品としていくつも登場してきたが、このジョーカーはこのレゴ映画のために独自にデザインされた、オリジナルバージョンである。大きく膨らむように逆立った緑色の髪、つぶらな黒目、丸っこく描かれた赤い唇とそこから覗くギザギザの歯、異様にテイルの長いタキシード、半袖のシャツ。定番のイメージを持ちながらも独自の解釈が入れられ、ジョーカー史において立派なひとつのバージョンに仕上がっている。


 込み入った話を単純にわかりやすく説明するのは難しい。本質的な部分を損なわないようにするなら尚更だ。しかし、この映画はレゴという世界観を通してそれを見事にやってのけていると思う。それはちょうど、ブロックの限られた造形で車や家といったものが、簡略化されながらも特徴を捉えてそれとわかる形で表現されていることとも通じる気がする。バットマンとレゴ両方の良さを見せてくれる『レゴバットマン ザ・ムービー』は大好きな作品だ。


 ジョーカーの物語は様々な形を取ってきたが、本当のジョーカーは果たしてどれだろうか?恐らくどれもが本当で、正しいジョーカーなのだろう。それはちょうど、彼がいかにジョーカーになったのかという物語がいくつも存在し、全てが可能性として残されているのと似たようなことなのかもしれない。そう考えると、創造と誕生の経緯についてクリエイターたちの証言が食い違い、もはや真相がわからないというのも、実にジョーカーらしい背景なのではないだろうか。謎に包まれた正体のわからない怪人が、そのときどきで少しずつ違った姿を見せるというわけだ。今後どんなバージョンが現れるにせよ、それは紛れもなくジョーカーのひとりであり、ハーレイ・クインのみならず、ぼくたちを魅了し続けることだろう。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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