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「とわにロキを、いつでも」 ※注!ネタバレ含みます。【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.60】

「とわにロキを、いつでも」 ※注!ネタバレ含みます。【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.60】

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ロキのロマンスと成長譚





 虚無空間におけるイースターエッグ探しは楽しいが、やはり忘れてはならないのは何人も現れる別宇宙のロキたちである。少年時代にソーを殺してしまったキッド・ロキ、サノスを幻術で騙して死を免れて隠れて生き延びるも、ソーに会いたくなって隠れ家を出たばっかりに剪定されてしまった老ロキ、なぜかワニの姿をしたロキ、自慢話が尽きないロキ、なぜか大統領候補になっているロキ……。様々なロキが登場し、大統領候補以外は全員違う役者であるにも関わらず、ちゃんとみんなロキっぽいところがおもしろい。そしてやはり素晴らしかったのは、TVAが追っていた変異体ロキ、女性ロキのシルヴィである。


 少女時代に突然TVAに捕らえられ、身に覚えのない罪で告発されるも、すきをついて逃げ出したシルヴィ。それ以来彼女は時間犯罪者として時空を逃げ続け、TVAを破滅させる計画を立てていた。主人公ロキが自由に物質を作り出し、他者に変身する能力を持つのに対し、シルヴィは触れた相手の心を操ることができる。ロキは初めて出会った別宇宙の自分自身の持つ孤独に共感し、やがて彼女に惹かれるようになる。


 本作の魅力はたくさんあるし、物語はここまで語ってきたようにやや複雑である。だが、一言で説明するなら、この「自分自身に恋をするロマンス」だろう。ロキは自分が大好きなナルシストで、他者を思いやることなど決してない。世界を支配しようとしてきたのもその孤独を埋めるためだろう。そんな彼が恋する相手は誰だろうか。もちろん自分である。『ロキ』は複数の自分がいる多元宇宙を利用したロマンスなのである。


 結局のところ一番わかり合えるのは別宇宙の自分。一見それは少し寂しい感じもあるが、そこには妙な頼もしさというか、温かさもあるのではないか。同じく多元宇宙を扱ったマーベル作品に『スパイダーマン:スパイダーバース』がある。それぞれの宇宙にそれぞれのスパイダーマンが存在し、それが一堂に会する作品だが、あそこで描かれるスパイダーマン同士の絆にはぐっとくるものがある。新米スパイダーマンだったマイルス少年は、他のスパイダーマンたちとの出会いを通して成長する。同じようにロキもシルヴィをはじめとする自分たち(文字通りの自分たちだ)との出会いを通して、そこに自分自身の姿を見つけることになる。自分の欠点も魅力も、鏡を見るように嫌というほど知ることになる。


 自分自身との出会いやロマンス、それをむなしい慰め合いとは思わない。これは違う自分との出会いを通した成長譚なのである。


 いつの間にか、『アベンジャーズ』時点の冷酷な悪役だったロキが、本来の時間軸における『マイティ・ソー バトルロイヤル』後のロキにまで重なっていく。最初にTVAで自分の人生を記録したファイルを見たことで、自分が変わっていく経緯やその顛末を知識としては知っていたロキだが、シルヴィたちとの出会いや戦いを通して実際に成長し、本当の意味で、ソーのために命を投げ出すまでになったロキに同期されたのである。


 舞台仕掛けはやや複雑だが、根本にあるのは純粋な成長の物語。1話が長めとは言え全6話という構成も見やすくまとまった内容なので、ぜひおすすめしたい。すでに制作が決定しているシーズン2も楽しみである。MCU作品におけるお気に入りがまた一作増えてとてもうれしい。 

 


イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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