(C)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『ラストタンゴ・イン・パリ』画家フランシス・べーコンが映画監督たちに与えるインスピレーション、その源流
2019.11.11
フランシス・ベーコンの絵に込められた意図
当時の映画では冒頭にまずタイトルが出るという作品が多く、本作品も同様の構成なのだが、そのタイトルバックには、2枚の絵画が順番に出現する。一見したところ、美術館でよく見かける西洋の人物画だが、よく見るといずれも顔や肉体の輪郭線が曖昧で、原型をとどめないレベルにまで歪んでいる。椅子やベッドらしきものに身を任せてはいるが、室内のような空間は閉ざされており、描かれているのは誰で、どこなのか、情報が一切無い。余白を生かした空間配置や塗り込められた色使いもあって、不安感に満ちている。だからこそ、キャンバス中央に描かれた人物の肉体感だけが印象的に浮かび上がってくる。
画家の名前は、フランシス・ベーコン(1909-1992)。極端に顔や肉体を歪ませた人物や、正体不明の生物らしき物体を、大胆で過激な筆致で描き、見る者を離さない印象的な作風で一躍有名になり、20世紀最も重要な画家と評されたイギリス人画家である。
『ラストタンゴ・イン・パリ』(C)2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『ラスト・タンゴ・イン・パリ』に使用されている絵はその中でも比較的おとなしい、わかりやすい作品ではあるが、それでも、不穏な印象を抱かせるには十分である。実は、モデルとなった人物は、一枚は画家本人の恋人であった男性、一枚は交流のあった女性ではあるが、そこには内面が感じられず、楽しさや悲しさなど、わかりやすい感情や意味を読みとろうとしても難しい。
フランシス・ベーコンはゲイであり無神論者であった。若きベルトルッチは無神論者を貫いたパゾリーニ監督の助監督をしていた時期があった。精神性の伴わない、肉体関係だけの男女のコミュニケーションとその断絶。そのようなテーマを、タブーを恐れず映画で描こうとしていたベルトルッチは、常識や思い込みの破壊をフランシス・ベーコンにみてとったはずである。ガトー・バルビエリのスローなジャズ音楽と共に、映画の通奏低音を冒頭から響かせたかったに違いない。