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『ゾンビランド』終末世界で「楽しく生きる」発想の妙――愛すべき“照れ屋”な爽快作
主要キャスト、スタッフが軒並み飛躍
『ゾンビランド』の大きな魅力であり、特徴でもある楽観的な空気感。どこか大雑把であり、親しみが持てる居心地の良い世界観。
これらは監督のルーベン・フライシャー特有の作風でもあり、付随する「暴力を無臭化する」手腕は脚本のレット・リース&ポール・ワーニックによるところが大きい。彼らの名前を聞けばピンと来るだろうが、フライシャーは『ヴェノム』(18)、リース&ワーニックは『デッドプール』(16)を経て、世界的なヒット作を手掛けるまでにブレイクした。
ちなみに本作の脚本は、2007年のブラックリスト(映画化されていない優秀脚本リスト)に入っていたという。『JUNO/ジュノ』(07)、『ラースと、その彼女』(07)、『ソーシャル・ネットワーク』(10)もここの“出身”だ。
出演陣も、本作を経て大きく飛躍した。秀作『イカとクジラ』(05)で注目されたジェシー・アイゼンバーグは本作の後に『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞の候補入りを果たす。『グランド・イリュージョン』(13~16)、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16)などビッグバジェットの作品や、ウッディ・アレン監督作にも多く出演した。『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(94)、『ラリー・フリント』(96)などで演技力を高く評価されたウディ・ハレルソンは、『メッセンジャー』(09)、『スリー・ビルボード』(17)でオスカー候補入り。『猿の惑星: 聖戦記』(17)、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(18)も記憶に新しい。
エマ・ストーンは『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(12~14)などのビッグバジェットに加えて、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)、『ラ・ラ・ランド』(16)、『女王陛下のお気に入り』(18)などオスカー関連作に続々と出演、『ラ・ラ・ランド』ではアカデミー賞主演女優賞を獲得した。最年少のアビゲイル・ブレスリンは『リトル・ミス・サンシャイン』(06)でアカデミー賞女優賞ノミネート、『8月の家族たち』(13)では、メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツといった実力派たちと共演している。主要キャストが全員アカデミー賞に絡んでいるのは驚くべきことだ。
『ゾンビランド』(c)2009 Columbia Pictures Industries, Inc. and Beverly Blvd LLC. All Rights Reserved.
前述したとおり、本作ではキャスト陣が実にのびのびと演技を行っている。さらにビル・マーレイが本人役で登場し、みんなで『ゴーストバスターズ』ごっこをするなど、遊び心が抜群。余談だが、トゥインキー(お菓子)好きなタラハシーを演じたハレルソンはビーガン(動物性食品を食べない主義)のため、わざわざ卵やバターを使わないトゥインキーを特注したとか。このようなノリが内輪ウケにならずにちゃんとオープンな面白さを生み出しているのは、力のあるメンバーをそろえているからこそだろう。その後の躍進も、必然かもしれない。
ただ、キャストと監督は他のメンバーになる可能性も大いにあった。主人公のコロンバス役にはジェイミー・ベル、ウィチタ役にはエヴァン・レイチェル・ウッドとミーガン・フォックスなどが候補に入っていたという。そもそも、『ゾンビランド』は元々テレビドラマの企画であり、『ハロウィン』(78)のジョン・カーペンター監督が手掛けるはずだった。しかし長編映画に移行したことで、カーペンターは離脱。このチャンスを勝ち取ってフライシャーが監督デビューを果たしたのだ。
そういった流れを見るに、この映画が歩んだ道のりは、まさに「奇跡」といえよう。