20世紀の謎、ジミー・ホッファ失踪事件の真相が明かされる
デ・ニーロとスコセッシが最後に組んだ作品は『カジノ』だった。また、一緒に組める企画を探していたふたりは、最初はドン・ウィンズロウ原作の小説「フランキー・マシーンの冬」(角川文庫、東江一紀訳)の映画化を考えていたという。ところが、デ・ニーロの監督作『グッド・シェパード』(06)の脚本家だったエリック・ロスに、チャールズ・ブラントのノンフィクション「アイリッシュマン」(ハヤカワ文庫、高橋知子訳)を渡され、今度はこちらの映画化を考え始めた。
どちらも老いを意識している殺し屋の話だが、<ヴァラエティ>に掲載された記事によると、スコセッシは「(『アイリッシュマン』は)すぐに、映画が頭に浮かんできた」という。デ・ニーロもこちらの本にのめり込み、「彼がすっかりキャラクターに入り込んでいるのがよく分かった」とスコセッシは回想する。「とにかく、大作にしなくてはいけないことが分かった。ただ、映画界の様子は刻一刻と変わりつつある。昔なら声をかけたであろう会社では、もう作るのが無理だと感じていた」
当初はパラマウントで製作を予定していたが、製作費が1億ドルを超えるとパラマウントは手を引き、その後はネットフリックスがひき受けることになった。1億5,900万ドルという最終的な製作費は、スコセッシ映画史上最大のものとなり、上映時間も彼の映画としては最長のものとなった(製作費は1憶7,500万ドルと報じているものもある)。
製作費がふくれあがった理由のひとつは、長い年月に渡る物語ゆえ、主演男優たちの顔をコンピューターの特殊技術を使って若返らせる必要があったからだ。特撮はILMのパブロ・ヘルマンが担当。映画の撮影のために特殊な機材を作り上げ、3台のカメラを使って撮影し、さらに俳優に特別なメイクもほどこした。その結果、現在、70代の男優たちのしわが消え、若い頃から現代に至る顔の変化が表現されていく。
また、映画ではキューバ危機、ジョン・F・ケネディ暗殺事件、ウォーターゲート事件など、60年代から70年代にかけての社会的な事件も描かれ、ケネディの弟、ロバート・ケネディとの騒動も出てくる。そして、後半ではホッファ事件の真相も明かされる。
『アイリッシュマン』に参加することになったデ・ニーロはホッファに関する調査していた役人に会った時、「事件に関してはっきりした証拠はない。映画版に参加しないほうがいいのでは?」と助言されたという。しかし、デ・ニーロは「実際に起きた事件ではなく、私たちの物語を描きたかった」と語る。
原作本では数々の証言や事実が積み重ねられていくが、それをドラマとしてうまく脚本にしているのは『シンドラーのリスト』でオスカー受賞の経験もあるスティーヴン・ザイリアン。アメリカの裏面史を盛り込んだスリリングな展開になっている。