『ドクター・スリープ』キューブリック作『シャイニング』を引き継ぎつつ、原作者キングを満足させた理由とは　※注！ネタバレ含みます。

漫画「ジョジョ」との奇妙な符合

　そして、日本が誇る“超人団体戦”の傑作と言えば、荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズだ。「ジョジョ」は荒木が好きな映画や音楽をさまざまな形で引用していることでも知られる。キング作品に限っても、第3部「運命の輪」の変形する車が『クリスティーン』を、4部の山岸由花子が愛する広瀬康一を監禁するエピソードが『ミザリー』をそれぞれオマージュ。そして『シャイニング』についても、扉に開けた穴からジャックが顔をのぞかせる名場面を、3部のアレッシーというキャラで再現している。

『ドクター・スリープ』（c）2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

　著書『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』（集英社）では、一章を丸ごと割いてキング原作の映画を論じるほど、偏愛するキングの影響を感じさせる「ジョジョ」だが、『ドクター・スリープ』では逆に「ジョジョ」の影響を受けたのでは、と思ってしまいそうな場面がある。

　ダンはローズとの戦いの最後で、心の棺に閉じ込めていたホテルの悪霊たちを解き放ち、ローズを襲わせる（これは原作から改変した映画オリジナルの場面）。この「毒を以て毒を制する」攻撃が、4部の最後で杉本鈴美が吉良吉影に反撃する方法によく似ているのだ。「ジョジョ」は英語にも翻訳されているので、フラナガンが読んだ可能性はゼロではないが、おそらくは偶然似ただけかもしれない。それでも、「ジョジョ」ファンにとってこの奇妙な符合はちょっと嬉しいのではないか。

救済された“キングの分身”